ポール・マクリーンの脳の三層構造仮説:本能~情動~知性の相補的な機能

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アメリカのポール・マクリーン(Paul MacLean, 1913-)は、人間の脳の構造と行動様式を、“生物の進化の過程”と“動物の原始的な本能”から説明することを試みて、“脳の三層構造説”の仮説を提示しました。

ポール・マクリーンによれば、人間の脳は『爬虫類脳→旧哺乳類脳→新哺乳類』の順番で進化し、機能を複雑化させ高度化させてきたことになります。

マクリーンの理論に触れる場合に、犯しやすい誤謬に“脳の構造の複雑化”を“種の優越性の証明”とする進歩主義の誤謬がありますが、進化生物学という自然科学領域に留まる限りにおいて、脳の構造に価値判断としての優劣はなく、ただ構造と機能の差異に基づく環境適応能力の高低があるだけです。

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とはいえ、生物種間の差異に注目すると確かに、精神機能の複雑さや奥深さでは人間に比肩する生物種は存在しませんし、言語的な機能に支えられた知性や自我意識の存在は、自然界における“ヒトという種の特殊性”を示しているとも言えます。

自然の摂理としての“遺伝子保存の目的”以外の部分に、生きる意味や存在する価値を見出す事が出来る科学的基盤は大脳新皮質の肥大即ち自我意識を巡る複雑な精神機能にあります。

ポール・マクリーンの脳の三層構造の仮説は、現代の最新脳科学では厳密なモデルとしての正確性はありませんが、脳の構造と進化の大まかな理解や認識を得るのには便利な仮説です。

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ポール・マクリーンの脳の三層構造説

1.爬虫類脳(reptilian brain)

進化の時間的過程において最も古い年代に発生した脳器官であり、自律神経系の中枢である脳幹と大脳基底核より成り立つ。

心拍、呼吸、血圧、体温などを調整する基本的な生命維持の機能を担い、爬虫類に特徴的な自分のテリトリー(縄張り)の防衛意識などを発生させる。種の保存というよりも自己保全の目的の為に機能する脳の構造部位である。
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2.旧哺乳類脳(paleomammalian brain)

爬虫類脳に次いで進化した脳器官で、海馬、帯状回、扁桃体といった“大脳辺縁系(limbic system)”から成り立つ。

個体の生存維持と種の保存に役立つ快・不快の刺激と結びついた本能的情動や感情、行動につながる動機を生起させる機能を担い、危険や脅威から逃避する反応、外敵を攻撃する反応を取る原始的な防衛本能を司る脳の構造部位である。

大脳辺縁系は、本能的に遂行される“種の保存の目的=生殖活動”を司る部位であり、自己の遺伝子を継承する為の情動的評価に基づく社会的活動や集団行動を行い、無力な子の育児や保護を行う母性的な欲動・本能の源泉でもあるとされる。
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3.新哺乳類脳(neomam-malian brain)

最も新しい年代に発生した脳器官であり、大脳新皮質の両半球(右脳・左脳)から成り立つ。

言語機能と記憶・学習能力、創造的思考能力、空間把握機能などを中軸とする高次脳機能の中枢であり、ヒトと高等哺乳類において特に発達した知性・知能の源泉でもある。

マクリーンの仮説では、新哺乳類脳は、最も高次の階層構造として最も高度で複雑な情報処理を行う部位であるとされるが、大脳新皮質単独では高度な情報処理を行うことはできず、大脳辺縁系や脳幹、小脳などと相補的に協調し連動しながら高次な精神機能を実現していると考えられる。

私たちの幸福と苦悩に関連する“情動の中枢・大脳辺縁系”で作用する脳内の情報伝達物質(神経伝達物質)には、以下のようなものがあり、大まかな情緒作用と化学物質について記述しておく。

飽くまで、観察される現象から推測帰納されたものなので、以下の脳内化学物質のみによって人間の情動や感情の生起・維持・変容・消滅を説明することは出来ない事に留意する必要はある。

その一方で、人間の感情生活の悩みや気分の停滞の原因を、心理的なものや過去の記憶ではなく脳内の化学物質に還元することで、抑うつ感や不安感が軽減するという性格や考え方の人もいる。症状の軽減や気分の改善に役立つ認知へと変容させるために『情報伝達物質と感情・情動の相関関係』を説明する事が認知療法的な効果をもたらす場合もあるので、相手の基本的な心理観を考慮した上で必要に応じて利用してもよい。

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■興奮・歓喜・陶酔・恍惚などの強い情動作用

PEA(フェニルエチルアミン)

■興奮・興味関心の促進・気分の高揚・意欲などの情動作用

ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)、ドーパミン、セロトニンなど

■情緒安定・落ち着き・安らぎ・信頼と安心などの情動作用

エンドルフィン・セロトニンなど

■不安・恐怖・不快・攻撃性などの情動作用

コルチゾール、アドレナリンなど

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それぞれの神経伝達物質の作用を厳密に分類し記述することはできないが、おおまかに神経活動を促進し高揚させる物質と神経活動を抑制し鎮静させる物質があり、前者は躁状態や幸福感、爽快感を導き、後者はうつ状態や意欲の減退などを導く。

また、脳内モノアミン仮説では、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの不足・枯渇が神経細胞間の情報伝達活動を障害して、うつ病をはじめとする気分障害・感情障害の原因となるとされている。

神経活動を覚醒させて活発化させるドーパミンの分泌過剰は、統合失調症(旧・精神分裂病)の生物学的原因であると考えられている。

元記事の執筆日:2005/06/06

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