『枕草子』の現代語訳:149

清少納言(康保3年頃(966年頃)~万寿2年頃(1025年頃))が平安時代中期に書いた『枕草子(まくらのそうし)』の古文と現代語訳(意訳)を掲載していきます。『枕草子』は中宮定子に仕えていた女房・清少納言が書いたとされる日本最古の女流随筆文学(エッセイ文学)で、清少納言の自然や生活、人間関係、文化様式に対する繊細で鋭い観察眼・発想力が反映された作品になっています。

このウェブページでは、『枕草子』の『一 夜まさりするもの 濃き掻練のつや~』の部分の原文・現代語訳を紹介します。

参考文献
石田穣二『枕草子 上・下巻』(角川ソフィア文庫),『枕草子』(角川ソフィア文庫・ビギナーズクラシック),上坂信男,神作光一など『枕草子 上・中・下巻』(講談社学術文庫)

スポンサーリンク

[古文・原文]

一 夜まさりするもの

濃き掻練(かいねり)のつや。むしりたる綿。女は、額はれたるが、髪うるはしき。琴(きん)の声。容貌(かたち)わろき人の、けはひよき。郭公(ほととぎす)。滝の音。

二 火影(ほかげ)に劣るもの

紫の織物。藤の花。すべてその類は皆劣る。紅(くれなゐ)は、月夜にぞわろき。

三 聞きにくきもの

声にくげなる人の、もの言ひ笑ひなど、うちとけたるけはひ。眠りて陀羅尼(だらに)よみたる。歯黒め付けてもの言ふ声。ことなることなき人は、もの食ひつつも言ふぞかし。篳篥(ひちりき)習ふほど。

四 文字に書きてあるやうあらめど、心得ぬもの

撓塩(いためしお)。衵(あこめ)。帷(かたびら)。ケイ子(けいし)。ゆする。桶槽(おけぶね)。

五 下の心かまへてわろくて、きよげに見ゆるもの

唐絵の屏風。石灰の壁。盛物(もりもの)。檜皮葺(ひわだぶき)の屋の上。川尻(かわじり)の遊女(あそび)。

六 女の表着(うわぎ)は薄色。葡萄染(えびぞめ)。萌黄(もえぎ)。桜。紅梅。すべて薄色の類(るい)。

七 唐衣(からぎぬ)は赤色。藤。夏は、二藍(ふたあい)。秋は、枯野(かれの)。

八 裳(も)は大海。

九 汗衫(かざみ)は春は、躑躅(つつじ)。桜。夏は、青朽葉(あおくちば)。朽葉。

一○ 織物は紫。白き。紅梅もよけれど、見ざめこよなし。

一一 綾の文(もん)は葵。かたばみ。霰地(あられぢ)。

楽天AD

[現代語訳]

一 夜のほうが勝っているもの

濃い紅の掻練(かいねり)のつや。むしっている綿。女は、額が出ているが、髪が綺麗な人。琴(きん)の音色。容貌が悪いが、雰囲気の良い人。郭公(ほととぎす)。滝の音。

二 灯火(ともしび)の明かりに見劣りするもの

紫の織物。藤の花。すべて紫色の類は劣る。紅(くれなゐ)は、月夜にはみっともない。

三 聞きづらいもの

声の良くない人が、しゃべったり笑ったりするなど、打ち解けている様子。居眠りしながら陀羅尼(だらに)を誦(じゅ)している。歯黒めを付けながらしゃべる声。特別なこともない人は、物を食べながらでもしゃべるものだ。篳篥(ひちりき・雅楽の楽器の一種)を習う時。

四 漢字に書いた字面が理由はあるのだろうが、納得のいかないもの。

撓塩(いためしお)。衵(あこめ)。帷(かたびら)。ケイ子(けいし)。ゆする。桶槽(おけぶね)。

五 下の具合は必ずみっともなくて、表面は綺麗に見えるもの

唐絵の屏風。漆喰塗りの壁。盛物(もりもの)。檜皮葺(ひわだぶき)の屋根の上。川尻(かわじり)の遊女(あそび)。

六 女の表着(うわぎ)は薄紫。葡萄染(えびぞめ)。萌黄(もえぎ)。桜。紅梅。すべて薄紫の類である。

七 唐衣(からぎぬ)は赤色。藤。夏は、二藍(ふたあい)。秋は、枯野(かれの)。

八 裳(も)は大海。

九 汗衫(かざみ)は春は、躑躅(つつじ)。桜。夏は、青朽葉(あおくちば)。朽葉。

一○ 織物は紫。白いもの。紅梅も良いけれど、見飽きてしまう。

一一 綾の模様は葵。かたばみ。霰地(あられぢ)。

スポンサーリンク

[古文・原文]

一二 薄様色紙(うすようしきし)は白き。紫。赤き。刈安染(かりやすぞめ)。青きも、よし。

一三 硯の箱は重ねの蒔絵(まきえ)に、雲鳥(くもとり)の文(もん)。

一四 筆は冬毛。使ふも、みめもよし。兎の毛。

一五 墨は丸(まろ)なる。

一六 貝はうつせ貝。はまぐり。いみじう小さき梅の花貝。

一七 櫛の箱は蛮絵(ばんゑ)、いとよし。

一八 鏡は八寸五分。

一九 蒔絵は唐草。

二○ 火桶は赤色。青色。白きに作り絵もよし。

二一 畳は高麗縁(こうらいばし)。また、黄なる地の縁。

二二 檳榔毛(びろうげ)は、のどかにやりたる。網代(あじろ)は、走らせくる。

楽天AD

[現代語訳]

一二 薄様色紙(うすようしきし)は白いもの。紫。赤いもの。刈安染(かりやすぞめ)。青いものも、良い。

一三 硯の箱は重ねの蒔絵(まきえ)を施していて、雲鳥(くもとり)の模様があるのが良い。

一四 筆は冬毛。使うのにも、見た目にも良い。兎の毛。

一五 墨は丸形。

一六 貝はうつせ貝。はまぐり。とても小さい梅の花貝。

一七 櫛の箱は蛮絵(ばんゑ)が、とても良い。

一八 鏡は八寸五分の大きさが良い。

一九 蒔絵は唐草が良い。

二○ 火桶は赤色。青色。白いものに作り絵も良い。

二一 畳は高麗縁(こうらいばし)。また、黄色の地の縁が良い。

二二 檳榔毛(びろうげ)の車は、ゆっくりと走らせているもの。網代(あじろ)の車は、走らせて来るものが良い。

スポンサーリンク
楽天AD
Copyright(C) 2016- Es Discovery All Rights Reserved