ADHD(注意欠如多動性障害)の発症率・経過と予後

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約10~20人に1人というADHDの発症率(出現頻度)の高さと悪影響


ADHDの経過・予後がどのようなものになるかは個人差が大きい

約10~20人に1人というADHDの発症率(出現頻度)の高さと悪影響

ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠如多動性障害)の発症率・出現頻度は、発達障害統計の研究者によって数字にかなりばらつきがあることが知られているが、それは『診断基準適用の厳密さの違い・調査対象とした層の傾向の違い』があるからだと推測される。

ADHDの発症率(出現頻度)の範囲は概ね『約2~20%』で非常にばらつきがあって、一つの数字だけを絶対的なものとして信用することは難しいが、現状で確かなこととして言えるのは、ADHDやアスペルガー障害(AD)のような発達障害は『うつ病(気分障害)・統合失調症』といった代表的な精神病と比較しても発症率はやや高めであるということである。統合失調症の生涯有病率は『約1%』、うつ病の生涯有病率は『約10~15%』、時点有病率は『約3%』程度とされているから、ADHDは統合失調症より発症率が高くうつ病の時点有病率とだいたい同じくらいであると考えることができる。

国際的な精神疾患・発達障害の診断基準であるDSM-5では、小児のADHDの発症率は『約5%』とされており、発達臨床精神医学の統計的研究でも概ね『約3~8%』程度であるとしていることが多く、子供の約10~20人に1人くらいがADHDを発症させている可能性が高いということになる。ADHDやアスペルガー障害は『男女の発症率の差』が大きな発達障害であり、児童期の男子のADHD発症率は少なくとも『女子の2~3倍以上』はある(統計研究によってはもっと大きな性別による発症率の差がある)という結果が出ている。

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成人のADHDの発症率は児童よりかは低く、アメリカのケスラーらによる発達障害者の大規模な統計調査では成人のADHD発症率は『約4.4%』とされており、DSM-5では成人のADHD発生率は『約2.5%』とやや低めである。発達臨床精神医学の統計研究でも成人の発症率は概ね『約2~5%』とされている。成人でADHDの発達上の問題を残存して抱えている人は、有意に『離婚率・失業率・他の精神疾患の合併率』が高くなっており、早期発見・早期療育によってADHDによるそれらの生活上・精神医学上の問題は改善しやすくなると考えられている。

ADHDを持っている人やADHDと診断されずに大人になった人は、日本国内でも数百万人単位でいると推測されるが、ADHDは重症度や生活支障度の個人差が非常に大きいので、ADHDであるから必ず治療・療育を受けないと日常生活・仕事にまったく適応できないといった話ではない。ADHDであることによる『潜在的な苦手意識・集中力欠如の不適応・ケアレスミス・短気と衝動・対人トラブル』などは軽症事例でもあるが、ADHDの諸問題が軽症であるほど療育がなくても何とか自分なりに適応可能な仕事・職場・関係を見つけ出しやすくはなる。

ADHDは自閉症スペクトラムと同じく『遺伝性』のある発達障害であることが知られており、血縁関係があればADHDも遺伝しやすくなるという『家族因性』が指摘されるが、近年は愛着障害と関係する子供の養育環境の問題に着目する研究が出てきており、ADHDには『遺伝要因と環境要因の双方』が輻輳的に影響しているという見方も有力である。

しかし、親にADHDがある場合には子供がADHDを発症する確率は有意に高くなり、きょうだい間でもADHDの問題が共通して見られる確率は有意に高くなっている。ADHDはアスペルガー障害やうつ病、不安障害などとオーバーラップ(重複)しやすい発達障害でもあり、ADHDの問題を持っている子供は二次障害としての精神疾患や衝動性の制御困難(暴力を伴う対人トラブル)にも注意する必要がある。

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ADHDの経過・予後がどのようなものになるかは個人差が大きい

ADHD(注意欠如多動性障害)の症状や問題は、幼児期・児童期に発見されることが多いが、その問題は青年期・成人期以降にまで続くことも多く、『社会的・職業的な不利益』を減らすための『療育や生活技能訓練・環境調整・対人援助・カウンセリング(認知行動療法的なアプローチ)』が重要になってくる。

ADHDの症状・問題が持続するか軽快するかの一つの転換点が『思春期・青年期』にあり、特にADHDの主要症状のうちで『多動性(動き回る・落ち着きのなさ)』は、児童期後半くらいから徐々に目立たなくなっていくことも多い。思春期以降にも残りやすいADHDの症状としてあるのは『不注意(注意力・集中力の低さによって課題を遂行できない)』『衝動性(今やりたいと思って湧き上がった衝動性・攻撃性をセルフコントロールできない)』である。

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児童期に発見されたADHDの症状・問題が早期に軽快することなく長引くほど、非行・反社会的傾向・物質依存性(アルコールなどの物質嗜癖)・精神障害など各種の『二次障害』を引き起こすリスクが高くなってしまうとされている。ADHDの経過と予後の個人差は相当に大きく、軽症事例や早期に軽快した事例では、思春期以降にADHDの問題による実際的な生活・職業・対人関係の不利益はほとんど目立たなくなることも多い。

ノルウェーの小児精神科における小児患者の257例を対象にしたモンドーレらの統計研究では、ADHDと診断された小児の長期予後は『職業上の機能障害』の問題が目立つとされており、他の精神疾患・発達障害の診断と比べても『障害年金の受給率』が有意に高かったとされている。

ノルウェーのADHDの予後研究はやや悲観的な結果になっているが、アメリカのクラインらが行ったADHDの予後研究ではもう少し楽観的な結果がでている。平均年齢8歳のADHD小児患者を33年の長期にわたってフォローアップしたところ、41歳になった時点でADHDと診断された人は22.2%に過ぎず、ADHDと他の精神疾患のオーバーラップ(重複)がなければ、職業的機能は維持されやすいと結論づけている。

ADHDは二次障害として行為障害・反社会的パーソナリティー障害や結婚生活の不適応(離婚問題)、物質依存性(アルコール・薬物)を引き起こすこともあるが、アメリカのクラインらの統計研究では少なくとも(小児期のADHD診断の精度が低かった怖れもあるが)『ADHDに固有の多動性・不注意・衝動性』などの問題は数十年のスパンでは回復しやすいことが示唆されている。

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ADHD(注意欠如多動性障害)の長期的な経過・予後に関する研究では、早期療育などの効果的アプローチがあれば、思春期から青年期にかけてADHDの症状・問題が改善されることは多いが、それでも『全般的な寛解・治癒』にまで至ることは少なく『部分的な軽快・改善』に留まることが多いとされている。

職業生活・対人関係に支障がでるADHDの深刻な二次障害として知られるのは、上述したように『行為障害(衝動制御困難な暴力的傾向)・反社会性パーソナリティー障害・アルコール依存性・薬物依存性』などであり、これらの二次障害が起こると長期の予後、長期の社会適応はかなり悪化してしまうのである。

しかし、こういった長期の予後がかなり悪いケースというのは、幼児期・児童期・思春期の段階において既に『中等度以上の重症のADHDの子供』であり、一般的にADHDの子供全般がこのような好ましくない経過・予後を辿るわけではない点に注意が必要になるだろう。中等度以下、比較的軽症のADHDのケースであれば『早期療育・支援体制・環境調整・カウンセリング』などによって『自分の適性・能力にあった社会適応・対人関係』の好ましい予後に至ることも多いからで、ADHDの経過・予後は個人差が大きいのである。

ADHDの症状の重症度が低い人の場合には、思春期・青年期以降の大人になってから『注意散漫(不注意)・集中力がない・タスクの遂行ができない・片付けができない・人の話をしっかり聞けない・衝動を上手く制御できない・不器用である』を訴えて精神科・心療内科などを受診することが多い。

こういった『大人になるまで大きなADHDの問題や不適応を自覚せずに済んだ人(潜在的にADHDの問題があっても大人になるまで何とか環境や課題に適応してやって来れた人)』は、ADHDの長期予後も良いことが多く(反社会的で深刻な二次障害を起こすことがほとんどなく)、『薬物療法・精神療法・対人援助・環境調整』などを組み合わせることによって、現在の仕事・家庭・人間関係の適応水準も上がってくる。

子供時代のADHD的な症状が自覚できなかったり大人になって働き始めるまでそれなりに適応できてきた『ADHDの軽症事例』も含めて、ADHDの長期の経過・予後を考えると『反社会的な二次障害を高確率で発症するほどには悪くない』と言える。更に、反社会的・依存症的な二次障害とされる問題についても『遺伝的なADHD以外の行為障害・愛着障害・PTSDなどが根本原因である』という見方も強いのである。

学校教育や同世代の友人関係にもそれなりに適応できていた『ADHDの軽症事例』では、アスペルガー障害などと同様に知的能力と教育水準が高いことも多く、『成人期以降のADHDの療育・治療(薬物療法+精神療法+環境調整)』に対する適応が良くなりやすく、自発的な取り組みで効果が出やすいメリットもある。

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