なぜ発達障害が増えているのか?1:男性ホルモン説・超男性脳仮説・低体重児説・高齢出産

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“男性ホルモン・男性脳”が発達障害に与える影響

“低体重児・高齢出産(父母の年齢上昇)”が発達障害に与える影響

“男性ホルモン・男性脳”が発達障害に与える影響

発達障害(developmental disorder)の原因は、『中枢神経系(脳)の各種機能の成熟障害』とされているが、それ以外にも幾つかの生物学的・生理的な原因が想定されている。自閉症スペクトラム(アスペルガー障害を含む広汎性発達障害)は女児よりも男児に多く発症する先天性の発達障害なので、『胎生期(胎児期)における男性ホルモンの過剰曝露の影響』が考えられてきた。

『自閉症スペクトラムの発症・症状』『男性ホルモン濃度(テストステロン濃度)』には、一定の相関関係があることが分かってきており、自閉症スペクトラムの男児(男性)は男性ホルモン濃度が高いために性器の発達が早かったり、性欲が亢進しやすかったりする傾向がある。自閉症スペクトラムの女児(女性)も男性ホルモン濃度が高いために、女性としての身体的成熟(生理機能の成熟)が遅れたり、月経・排卵に問題が生じたりするケースが出てくることがある。

自閉症スペクトラムの女性は、『思春期の月経開始の時期が遅くなりやすい・無月経や月経周期(排卵)に関する問題が起こりやすい・多のう胞性卵巣という疾患を発症しやすい』などの男性ホルモン濃度の高さと相関した問題が起こりやすいのである。女性ホルモンは男性ホルモンを材料としてアロマターゼという酵素の作用で作られるので、自閉症スペクトラムの人の脳ではアロマターゼの量が少なかったり活性が低かったりするのではないかと推測されている。

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自閉症スペクトラムと男性ホルモン濃度との相関に注目すると、胎生期(胎児期)の胎児の脳が大量の男性ホルモン(テストステロン)に曝露すると、先天性の自閉症スペクトラムの発症リスクが高まると考えられる。胎生期のホルモンシャワーは男性ホルモンのシャワーであるが、このホルモンシャワーは男女の脳機能の性差につながるという仮説がある。

胎児の脳が男性ホルモンのテストステロンを浴びる量が少なければ『女性脳(共感性・社交性・コミュニケーション能力の高さ・空間認識能力の低さ・感情優先の特徴を持つ脳)』になるが、大量の男性ホルモンに曝露すると自閉症的な対人コミュニケーションを苦手とする特性と相関しやすい『男性脳(論理性・非社交性・攻撃性・コミュニケーション能力の低さ・空間認識能力の高さ・論理優先の特徴を持つ脳)』になるのだという。

胎児期に大量のテストステロンの男性ホルモンに曝露して、男性脳の特徴が強く出過ぎると自閉症スペクトラムになりやすいという仮説を、『超男性脳仮説(男性ホルモン説)』と呼んでいる。胎児期の男性ホルモン(テストステロン)は、男児ではそのまま精巣から分泌されているが、女児では副腎から男性ホルモンが分泌されて胎盤で代謝(胎盤でアロマターゼが正常に機能していれば男性ホルモンの一部が女性ホルモンに転換されてバランスが保たれる)されている。

『超男性脳仮説』の実証データとしては、胎児期の羊水を採取してテストステロン濃度を調べると、濃度が高い胎児のほうが出産後・成長後に自閉症スペクトラムのような性格行動パターン(他者に興味関心を示さない・言語の発達が遅い・コミュニケーションが苦手・目線を合わせにくいなど)を示しやすかったというデータがあるようだが、現時点では男性脳(男児)のほうが自閉症スペクトラムになりやすいという傾向性を指摘するレベルの仮説である。

テストステロンの濃度には遺伝的要因が関係しているが、母体のストレスやホルモン分泌の乱れ、環境ホルモン(内分泌撹乱物質)の影響などによって、テストステロンのレベルが異常に上がったり下がったりしやすくなると考えられている。PCB(ポリ塩化ビフェニル)をはじめとする化学物質や副作用のある医薬品によって、性ホルモン分泌が撹乱させられたり、胎児の神経発達プロセスが障害されたりする恐れも指摘されている。

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“低体重児・高齢出産(父母の年齢上昇)”が発達障害に与える影響

先進国では少子高齢化が社会問題になりやすいが、『親の結婚・出産の年齢上昇』も発達障害が増える要因の一つになっているのではないかと言われる。日本では1970年代後半から段階的に晩婚化・未婚化が進行しているが、2010年代に入ると男性の平均初婚年齢は30歳を超えるようになり、女性も30歳前後になってきており、女性の初めての出産(初産)が30代半ば以上になる高齢出産のケースが珍しくなくなってきた。

高齢出産が胎児・新生児の遺伝子異常の統計的リスクになることは知られていて、特に母親の出産年齢が35歳以上になると『ダウン症の発生率』は有意に上昇してくる。自閉症スペクトラムもダウン症ほど顕著な発生率の上昇ではないものの、子供を産む母親と精子を提供する父親の年齢が高くなるほど『自閉症スペクトラムの発生率』が有意に増加することが分かっている。

出産する母親だけではなく精子を提供する父親の高い年齢(35歳以上)も、自閉症スペクトラム発症のリスクを高めることが言われている。父母の年齢が40歳以上にまで高くなると、35歳未満の若い父母と比較して、自閉症スペクトラムの発症リスクが約65%上昇するのだという。

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晩婚化や高齢出産増加の問題点の一つとして、胎児の身体・脳を形成する遺伝子のエラーが若い頃よりも若干起こりやすくなるということがあるので(確率的リスクなので絶対に発症率が高くなるわけでは当然なく生殖細胞の老化の個人差も大きいが)、子供を産み育てる人生設計を思い描いているのであれば、20代半ばくらいから具体的な出産・育児のビジョンや時期を考えていても良いのかもしれない。相手側の結婚・子育ての意向や仕事のキャリア・経済面の事情もあるだろうから、いくら早めに人生設計を立てて準備していても結婚・出産の時期が思い通りにいくとは限らないものではあるが。

高齢出産や摂食障害(極度のやせ願望・食事の栄養と量の不足)、早産は胎児の発育不全のリスクも高めるので、『低体重児(未熟児)の出産』も多くなりやすい。だが、『体重2000グラム未満の新生児の低体重』は追跡調査の結果では、『21歳時点の自閉症スペクトラムの有病率』を5%ほど高めることが知られている。

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新生児の低体重は『自閉症スペクトラム』だけではなくて『ADHD(注意欠如多動性障害)』の有病率も高めることが知られており、2500グラム未満の低体重児ではADHDの発生リスクは1.5倍、1500グラム以下では2.1倍にまで高まってしまう。ADHDは自閉症スペクトラムよりも、どんな親子関係のプロセスを経験するか、親からどのような育てられ方や教えられ方をするかという『環境要因(養育・家庭の要因)』の影響も受けやすいと推測されており、『高齢出産』よりも『若い母親(10代~20代前半の母親)』の出産によってADHDの発症リスクは高まりやすい。

ADHD(注意欠如多動性障害)が若い母親や若いシングルマザーの子供に発症しやすい原因は、『生殖細胞の老化・遺伝子情報のエラー』ではなく『養育環境や親子関係の問題』であると考えられる。若い母親やシングルマザーでも立派に子育てをされている人は多くいるので、あくまで統計的な確率の高さの話ではあるが、10~20代前半の若い年齢の出産では『職業(仕事)や収入が安定しておらず貯金がない・両親の助けがなければ家庭の経済基盤が不安定である・若い父親に家庭や子供を支えていく覚悟や収入が伴っていないケース(離婚してしまうケース)がある・親としての意識よりも男女としての意識が勝ってしまうことがある(育児環境や親の意識が不十分なままでの連れ子のいる再婚)』などの問題が起こりやすい面はある。

今まで、ADHDを含む発達障害の原因はほぼ100%が『遺伝要因』のように捉えられがちで、『環境要因』があるとしてもその比率は極めて小さいものとされがちだった。しかし、ADHD発症の危険因子として『児童虐待やネグレクト・母親のうつ・父親のDVや犯罪歴』などが関係していることが分かっていることから、ADHDの発症に関してはある程度、親子関係や家庭環境などの環境要因も影響していると考えられるようになってきている。

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