アスペルガー症候群の学習・勉強の悩み

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想像力の欠如によって起こる学習上の問題

アスペルガー症候群(Asperger syndrome:AS)では、『コミュニケーションの障害』『社会性(対人関係)の障害』と合わせて『想像力の欠如』という問題があり、この想像力の欠如によって学習上の困難やこだわり行動(常同行動)の問題が出てくることがあります。

アスペルガー症候群は知的障害・知能の遅れの無い広汎性発達障害(PDD)ですから、『教科学習の勉強(学校の勉強)』が特別に苦手というわけではなく、むしろ平均以上の成績を上げるASの子どももいるのですが、その良い成績の多くは『記憶力の高さ』に依存したものです。得意分野や長所・短所には個人差はあるものの、一般的には『記憶力の高さ』『想像力の低さ』という特徴を持っていて、暗記ものの教科・分野が得意な傾向があります。

法則性や一定のルールを覚えることも得意であり、算数の単純な四則演算(計算問題)が人並み以上に良くできることも多く、公式を一律に当てはめることで解くような算数の問題も得意です。漢字の書き取りテストや難読漢字を覚えるような試験でも良い成績を上げることが多く、社会科で歴史の年号・人物を覚えたり地理・地名を覚えたりすることにも強い関心を示します。

特定分野だけに突出した才能や意欲を発揮することもあり、学校の勉強がいまいち得意でなくても、鉄道の駅名と順序を網羅的に記憶したり、好きなアニメやゲームのキャラクターを全て綺麗に覚えたりすることがあります。一般の人が苦手な『機械的な記憶力』に優れていることもあり、『無意味な記号・数字の羅列』をそのまま写真に撮ったかのように覚えてしまえるようなASの子どももいます。

反対にASの子どもが苦手な分野は、『想像力を生かして考える分野・自由な発想と視点で問題を解く分野・自分自身で問題(目標)を探し出すような教科』であり、課題の本について自由な意見を書いていく“課題作文”や自分でやりたい研究テーマを決めてから取り組んでいく“自由研究”などは苦手で上手くできないことが多いようです。ASには『社会性(対人関係)と心の理論の障害』が見られるので、国語の教科で作者の意図を問うような問題や登場人物の心理を推測するような問題も苦手になりがちです。算数では上記したように計算問題や公式の当てはめは得意なのですが、『文章問題・複雑な応用問題』は上手く解けないことも多くなってきます。

アスペルガー症候群(AS)の学習行動の最大の特徴は、一つの特定の分野・項目だけを執拗に集中して取り組もうとする『シングル・フォーカス(モノトラック)』であり、このシングル・フォーカスによって『自分の好きな科目・分野』だけの成績がずば抜けて良くなることもあります。ASの子どもは良くも悪くも、『複数の教科をバランス良く勉強する』というのが苦手であり、一つの教科内容であっても極端に深く詳しく学んでいく部分とほとんど興味関心を示さずに勉強もしたがらない部分とに分かれやすくなります。

ASの子どもの学習支援や理解の強化では、シングル・フォーカスによる『学習対象の極端な偏り』を改善していくことも目指しますが、同時に『特定分野の記憶力の高さ・学業成績の良さ』はその子どもの長所・魅力ですので、その分野の能力を伸ばしていき積極的に褒めてあげることも大切です。その事によって、さまざまな対人関係のトラブルや学習上の躓きで傷つきやすい、ASの子どもの『自尊心(自己肯定感)』『物事への意欲(取り組む姿勢)』を支えて上げることもできるのです。

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ASの子どもの学習サポートでは、できるだけシングル・フォーカス(一つの事だけへの関心)の弊害を無くせるように、『好きな分野(科目)以外の事柄』にも興味関心を持てるように誘導していくことも必要になってきます。好きな分野だけに熱中して理解を深めたり成績を上げたりするのは良い事なのですが、『興味のない分野・科目』は全く勉強しないということになると、勉強しない分野と関連する『知識や常識の欠如』が目立ってきやすいので、最低限度の興味を持って勉強ができるようにフォローアップしていきます。

ASの子どもの『興味関心の幅』を広げて上げて、できるだけ多くの分野の勉強に取り組めるようにするには『叱ってやらせる』のではなく『褒めてやる気にさせる』という方法のほうが有効であり、『本人の得意分野・興味関心』を起点にして放射状に興味を広げていくように支援していきます。

『好きな科目・得意な分野と能力』を積極的に認めて褒めて上げることで、本人の自信が高まるだけでなく、勉強そのものに対する動機づけと意欲が高まりやすくなるのです。ASの子どもが苦手なのは上記したように『何でも自分の好きなようにやっていいという自由研究』『豊かな想像力や自由な発想を必要とする美術・創作・作文』などですが、こういった分野の学習でも『具体的な手順(やり方)・目標・課題』を教師・親が出してあげれば、ASの子どもでも自由研究や創作的な活動に取り組みやすくなるのです。

ASの子どもの学習の悩みでは、知的好奇心を上手く引き出すにはどうすれば良いのかをまず考えてから、その好奇心や興味関心に対して『具体的にどうすれば良いのかの勉強法(課題)の指示』を与えていくというのが効果的だと考えられています。

二つ以上の事柄を同時にするのが苦手

アスペルガー症候群(AS)には自分の好きな事だけにひたすら没頭して熱中するという『シングルフォーカス・モノトラック』の特徴があることもあり、二つ以上の作業を『マルチタスク』で同時進行させることが苦手で混乱しやすいという問題もあります。ASでは二つ以上の事柄を同時に考えたり実行することが難しくなっており、『状況・場面・必要性』に応じて柔軟に作業や行動を変化させていくというのも苦手です。『予め決められた事柄』を決まったやり方や手順の通りに実行するというのが得意であり、基本的には『シングルタスク(一つの作業)』を同じ方法でマニュアル的にこなしていくという作業のやり方になりやすいのです。

二つ以上の事柄を同時に考えたりこなせないという事は、アスペルガー症候群の脳の機能的な特徴である『二つ以上の情報を同時処理することが難しい』という事と相関していると推測されており、そのことは実際の『勉強のやり方・授業の受け方』にも少なからぬ影響を与えています。先生の話を聞きながら黒板をノートに書き写すことが難しかったり、複数のテキストや参考資料を参照しながら勉強するということができなかったり、音楽の授業で演奏を聴きながら歌うということができなかったりといった問題が起こってきやすくなるのです。

複数の事柄を同時に考えたりこなしたりすることができないという問題に対処するためには、『複雑な作業を幾つかに分かりやすく分割すること』がまず必要であり、その上で『ひとつひとつの作業を順番通りにつなげるというマニュアル(やり方の手本)』を作ってあげると上手くできるようになったりもします。先生の話を聞きながら黒板に書かれた内容をノートに書き写す場合では、『先生の話を聞く・黒板の内容を読む・内容をある程度書き写す・先生の話を聞く…』といったマニュアル的な作業の手順を決めてしまうことで、混乱やパニックを起こさずに複数の作業の進行を行いやすくなってきます。

アスペルガー症候群では心身を連携させる体育・音楽などが苦手になりやすい

アスペルガー症候群(AS)では上記したように、複数の事柄を同時に考えたりこなしたりする事が上手くできないので、身体と精神を同時かつ複雑に連携させながら行うスポーツや音楽、ダンス、図工などは苦手な傾向があります。体育における『スポーツ』は、リアルタイムで次々と状況と展開が移り変わっていき、その場その場での臨機応変なルールの理解や身体の動きが必要になってくるので、ASの子どもは運動神経が良くても複雑なルールに従わなければならないサッカー・バスケットボールなどの球技は苦手になりやすいのです。次々と目まぐるしく移り変わっていく『状況・場面』に応じた柔軟な対応や臨機応変な動き、ルールの理解などがASの子どもは上手くできないからです。

ASの子どもがなぜスポーツが苦手なのかの理由は、『頭で思考すること』『体で動くこと』を同時処理的に行わなければならず、更に周囲の状況の変化や他人の動きによって『瞬間的な素早い判断』をしなければならないからです。

頭と身体を同時に連携して働かせることがASの子どもは苦手であり、基本的なスポーツのルールは覚えられても、それを具体的な変化し続ける状況の中で応用することが出来なかったりするのです。更に、サッカーのパスやセンタリング、バスケットボールのパスやディフェンスなどでは『友達との協力・連携』が必要になってくるので、他人の心理や意図を推測することができないASの子どもは混乱してしまい、上手く他人(友達)と息やタイミングを合わせられないという問題があります。

ASの子どもにも運動が好きな子どもは沢山いますが、一般的に『細かな身体の動き・複雑な動作の組み合わせ・他人との連携』が得意ではないので、運動をする際の体の動きが固くなったりぎこちなくなったりしやすいのです。また、複雑なルールや仲間との協力を通して『勝敗・勝ち負け』を競い合うスポーツ競技そのものに、初めからほとんど関心や意味を見出せないというASの子どももいて、スポーツで負け続けたり仲間との関係が悪くなったりすることで、体育の授業やスポーツが嫌いになってしまうこともあります。

運動が好きなASの子どもであれば、スポーツ関連の『部活(運動部)・クラブ活動』ができないわけではありませんが、部活・クラブは生徒同士の自主性や協調性が重視される活動なので、一般的にASの子どもは部活特有の先輩・後輩関係や団体行動に上手く適応できないことも多いでしょう。先輩や友達がアスペルガー症候群の特徴と問題点を理解してくれて、一緒に部活(クラブ)ができるように特別な配慮・協力をしてくれれば馴染みやすくはなります。

ASの子どもに対するスポーツ指導では、イラストや絵、文字を用いながら『スポーツのルール・前提』を簡略化して分かりやすく教えてあげることがポイントになりますが、『正しい動作・反則になる動作・仲間との協力の仕方』などは繰り返しお手本を見せて上げることも有効です。そして何より大切なのは、集団行動や共同作業、連携プレイなどに適応できるように、教師の適切で分かりやすい指導の下で、クラスメイトがASの子どもの特徴を理解して、『仲間の環』に入れるように支援して上げることでしょう。

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