統合失調症(Schizophrenie)

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かつては『精神分裂病』と呼ばれていた精神病の“schizophrenie”は、2002年から『統合失調症』という名称に改正されました。その理由は、精神分裂病に対する誤った知識や理解が広まっていて、その誤解が偏見や差別につながる恐れがあった為です。また、精神分裂病という名称から、“精神や自我が分裂してしまう恐ろしい病気”、“いったん発病してしまうと元には戻らない病気”といった間違ったイメージが生まれやすいという事も名称変更の理由として考えられるでしょう。

統合失調症は、躁鬱病(双極性気分障害)と並んで、脳の機能障害(あるいは器質障害)としての精神病に分類される精神の病気です。統合失調症と躁鬱病は、『二大内因性精神病』と言われますが、内因性とは心理的な原因ではなく、先天的な遺伝要因や脳の機能障害が想定されるということです。もちろん、統合失調症の原因は、先天的な要因だけで説明できるものではなく、生育環境の影響、対人関係や生活環境による多大な心理的ストレスなどの後天的な要因も複雑に絡み合っていると考えられています。そのため、統合失調症の発病の原因について、ずばりと一つの原因を指し示すことは出来ません。つまり、統合失調症の真の原因は未だ明らかにはなっておらず、統合失調症を発病した人の脳内物質の分泌や神経活動の状態が分かっているだけなのです。

ただ、現在の精神医学では、統合失調症の人の脳では神経伝達物質の分泌の異常が起きていて、情報伝達がうまく行われていないと考えられています。この点は、もう一つの内因性精神病と言われる躁鬱病の人も同じで、脳内の情報伝達物質の量が少なくなるという異常が起きていて、抑うつ感や億劫感などの症状が現れてきます。

精神障害の中で“精神病”とされるのは、脳内の情報伝達過程がスムーズに行われなくなることによって症状が現れてくる統合失調症と躁鬱病ですが、古典的な精神病理学において精神病と精神病ではない神経症の違いは『現実認識能力の異常の有無』にあるとされています。

神経症などの非精神病では、現実の吟味が普通の人と同じようにできて、会話による意思疎通を問題なく行うことが出来ますが、精神病(特に統合失調症)の場合には、現実と想像を区別する現実検討能力が障害されて、その区別がつかなくなったり曖昧になったりします。その結果、幻覚や妄想といった症状がでてきて、普通の人との意思疎通がなかなかうまく出来なくなったり、誰もが現実であると認識している事柄を現実として受け入れることが出来なくなったりしてしまいます。

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もちろん、誰にでも勘違いや思い違いはありますし、間違った知識や認識を持ち続けている可能性はありますが、それらの間違った思い込みや認識は他人とじっくり論理的に話すことで間違いに気付き訂正することが出来ます。しかし、精神病的な思い込みや間違った認識である『妄想』になると、具体的な証拠や疑いようのない客観的な根拠を挙げて説得されても、『自分の考えは絶対に正しくて、相手が間違っている』という信念を変えることが出来ません。統合失調症の症状である妄想の場合には、原則的に『修正が不可能か極めて難しい』という特徴があります。

統合失調症の有病率は、約1%(調査により0.5~2.0%の範囲)で、100人に1人程度の割合で統合失調症に罹患していることになります。統計的には、統合失調症は一般に思われているほど特別な珍しい病気ではなく、意外にありふれた病気の一つに過ぎないのです。

発症しやすい年代である好発年齢は、10歳代後半の思春期から20歳代前半であるとされますが、妄想を主症状とする統合失調症は30歳代にも多く見られます。45歳以上の中高年者が罹患する統合失調症もありますが、それは老年期精神病とされ、一般の統合失調症とは区別されています。

発症しやすい年齢としては、20~25歳が考えられ、統合失調症は若い年代の人たちが罹りやすい病気といえます。

初めの部分で、『精神分裂病は、いったん発病すると二度と治らない不治の病であるという間違った認識』があると言いましたが、薬物治療や心理療法が発達した現在では、統合失調症は不治の病ではありません。特に早期発見されて早期治療された一番初めの統合失調症の症状は、薬物療法によってほぼ確実に軽快します。ただ、その後の症状の再発や進行には個人差があって、一概に医学的治療によって完全に良くなると保証できる病気ではないというのも事実です。

統合失調症の治療経過について簡単に説明すると、全体の約1割程度にあたる予後の良い統合失調症の場合には、一度だけ症状がでて、治療した後には二度と再発しないことがあります。

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全体の約20%は、いったん治療して完全に寛解するのですが、その後に一回ないし複数回、症状が再発します。

また、全体の約半分にあたる50%の統合失調症の人たちは、治療をすれば完全には寛解しないものの、ある程度良くなって日常生活を問題なく送れるようになるのですが、その後に一回ないし複数回、症状が再発してしまいます。

残りの約20%の人たちは、予後の悪い統合失調症の人たちで、薬物治療をしてもほとんど症状が回復せず、そのまま症状が続くかあるいは増悪して、通常の日常生活を送る事が不可能になります。

以上のように、統合失調症を治療してどのような経過を辿るのかは非常に大きな個人差があって、予後を早い段階で予測することはとても難しいのです。

典型的な統合失調症では、発病した初期段階でまず『急性期』という幻覚や妄想が出る状態になる事が多く、その急性期を薬物治療などで乗り切ることが出来れば、症状がある程度回復して、比較的安定した『寛解期』に入ります。全体の約半分が、『急性期~寛解期のサイクル』を繰り返す事になります。この状態は発病してから約5年間の経過であり、5年を超える中期経過になると寛解の方向に向けて症状が改善する人と、無気力で閉じこもりがちな陰性症状が強まってくる人とに分かれてきます。

10年以上の長期経過を辿る場合には、自然に症状が緩和されて寛解に向かうことが多く、高齢者世代になってくると多くの場合で症状が安定し落ち着いてきます。

統合失調症の初期によく見られる症状としては以下のようなものがあります。

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上記のような事柄や症状に当てはまる人がいる場合は、一応、医療機関に相談されたほうが良いと思います。統合失調症の人は自分自身では考え方や行動、発言の異常に気付く事が難しいですので、周囲にいる家族や恋人、友人知人が奇妙な行動や発言がある時には少しでも早く気付いてあげて、医師の診断治療を受けるように勧める事が必要でしょう。

統合失調症の詳細な症状の説明をする前に、この病気の簡単な歴史を振り返っておきましょう。1896年に、近代精神医学の疾病分類の基盤を築いたエミール・クレペリンは、それまで破瓜病や緊張病と呼ばれていた疾患を一つにまとめて“早発性痴呆”と名付けました。

その後、クレペリンの早発性痴呆は、ブロイラーによって“精神分裂病(schizophrenie)”と呼ばれるようになり、その疾患名が日本でも長い間、使用されてきました。ただ、冒頭で述べたように精神分裂病という名称にまつわる誤解や偏見が強くなってきた為、原語のschizophrenieを翻訳し直して、2002年に新たに“統合失調症”と呼ばれるようになったのです。

精神分裂病(schizophrenie)という名称を考案したブロイラーは、精神分裂病の基本症状として『4つのA』があると示唆しました。

4つのAというのは、

1.自閉性(autism)

2.観念連合の障害(association)

3.両価性(ambivalence)

4.感情の障害(affect)

の事です。

自閉性(autism)というのは、自分の内面世界に閉じこもってしまって、外部の世界や他人に関心を示さず、現実的な事柄とうまく関係を持つことが出来ないという症状です。

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観念連合の障害(association)は、ブロイラーがもっとも重視した精神分裂病の症状で、思考の内容や過程にまとまりがなく、支離滅裂な思考や発言をしてしまう症状です。それまでの経験や学習によって獲得された観念をうまく意味のあるものとして結合させる事ができないという観念連合の弛緩を含むもので、知っているはずのA君の名前とその性格や行動を結びつけることが出来なかったりします。A君のことをみんなが話している時に、自分はA君のことを話しているつもりでB君のことについて突然話し出したりして奇妙な感じを与えたりするのです。

両価性(ambivalence)というのは、矛盾する考えや正反対の二つの感情をある対象に対して持っているといった事です。例えば、Aさんの事を尊敬しているのだが、心の何処かで嫉妬して憎んでいたり、嫌っていたりといった両価性や、ある意見に表面的に賛成していても、よくよく自分の心を覗き込んでみるとその意見に反対だったりするといったアンバランスで対立的な二面性のことです。

感情の障害(affect)というのは、何事に対しても喜びや悲しみといった感情を抱く事が出来ない感情鈍麻の状態や気分が安定せずにコロコロと怒ったり、笑ったりする情緒不安定な状態を意味します。特に精神分裂病の陰性症状では、感情機能が完全に麻痺してしまって、どんな出来事があっても笑いもせず怒りもしないという精神機能の障害がよく見られます。

更に、精神医学者のシュナイダーは、精神分裂病(当時の名称で表記します)の鑑別診断の基準となる『この症状が観察されて、身体疾患や薬物の影響がなければ、精神分裂病と診断してよい』という項目を考えました。このシュナイダーによる鑑別診断的な精神分裂病の基準を『一級症状』といい、一級症状に当てはまらない精神分裂病と断定できない症状を『二級症状』と呼びます。

一級症状には、以下の8項目があります。

1.自分の考えている内容が、実際には存在しない幻聴となって聴こえてきます。しかし、その聴こえてくる内容が、元々は自分の思考であったという自覚はあり、『思考内容の自己帰属意識』はあります。

2.関連妄想・妄想知覚。現実的な関係がないモノや観念同士を無理矢理に関連付けて考えたり、自分勝手な意味を断定的に与えたりします。あの人の微笑は、私に対する悪意ある意図の表れであるとか、仲の良い友達が昨日学校を休んだのは、本当は風邪じゃなくて自分が知らず知らず友達に対して冷たい態度を取ったからに違いないといった妄想的な知覚です。

3.逐次、介入的な幻聴。何か自分が行動したり発言したりする度に、その行動や発言を非難したり侮辱したりする実際には存在しない声が聴こえたりします。『あの子に今日は告白するぞ』という自らの決意に対して『どうせ、お前が告白なんかしてもこっぴどくフラれて惨めな思いをするだけだぞ』といった幻聴が聴こえたりします。

4.思考奪取・思考領域の不特定の影響。自分にしかできないはずの自分の考え事に、誰か他人が介入してきて影響を与えていたり、自分の思考を奪い去っていったりするという考えを持っている事です。例えば、心の中で『あの野郎、あんな横着な態度を取るなんて絶対許せない!』と思った時に、その思考が誰かから抜き取られて、自分の悪意が他の人にばれてしまうと思ったりすることです。

5.複数人の対話形式の幻聴。二人以上の人々が自分についての噂や議論をしている声、実際には聞こえないはずの複数者の対話や噂の幻聴が聴こえてくる症状です。

6.身体への悪意ある行為。自分の身体に悪意ある個人や組織が盗聴器を仕掛けたり、発信装置を取り付けて24時間監視していると実際的な根拠のない思い込みに取り付かれる症状です。

7.作為体験。他人に自分の思考や意志、行動が操られているという感覚があったり、自分の身体や心を自分でコントロールすることが出来ず、誰かが遠くから自分に命令を下して操作しているといった非現実的な妄想を抱く症状です。

8.思考の伝播。自分の考えている内容が外部に漏れ出てしまって、周囲にいる人たちに聴かれてしまっているという症状です。『自分の考えは、周囲に筒抜けだから何も考えられない。自分はみんなに始終監視されている』といった発言をすることがあります。

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統合失調症の症状は、一般的に大きく二つに分類されます。

それは、妄想や幻覚を主症状とする『陽性症状』と感情鈍麻や自閉を主症状とする『陰性症状』です。陽性症状は、客観的に異変が見られる症状のことであり、陰性症状は精神機能の減退を示す症状のことです。

陽性症状と陰性症状は、“躁的で過剰に活発な陽性”“鬱的で極端に自閉的な陰性”で対極にある症状として考えられていますが、その両者に共通するのは『他者とのコミュニケーションの不可能性』、『社会性の喪失からくる社会不適応性』、『共感や感動といった人間関係に必要不可欠な感情の麻痺』です。

統合失調症で一番問題になってくるのは、現実と非現実の区別がつかないという精神病症状によって、社会的なルールや一般常識を理解することが出来なくなったり、社会的な人間関係を持つ為に必要な最低限のコミュニケーション能力が失われてしまう事です。そして、統合失調症の患者さんには、一般的に自分が精神の病気に罹っているという認識(病識)がないので、それを認識させるまでに根気強いカウンセリング的な対話が必要となってきます。

統合失調症が完全に寛解したと言えるためには、再び他者に対する興味や共感を取り戻して、お互いに理解し合えるコミュニケーションを取れるようになることが大切です。そして、その結果、現実的感覚や論理的思考を回復して社会に再適応し、精神的にも経済的にも自立的な日常生活を送れるようになることが最終的な目標ラインになってくるといえるでしょう。

陽性症状と陰性症状の詳細な内容は、以下の表のように分類することが出来ます。

陽性症状症状の内容陰性症状症状の内容
妄想(delusion)現実的でない間違った考えを正しいと信じ込み、その確信が強い為に間違いを訂正する事が出来ない症状。感情鈍麻快・不快や喜怒哀楽の感情表現が乏しくなり、感情が麻痺し平板化する症状で、感情鈍麻と一緒に道徳観の低下が伴うこともあります。
幻覚(hallucination)実際には存在しない声が聴こえたり、その声に命令されたりする幻聴や現実にはないものが見える幻視などが代表的な幻覚です。その他にも現実的でない幻覚として、幻嗅・幻味・幻触などもあります。思考の貧困化会話の量や内容が乏しくなったり、会話が途中でいきなり止まったり、相手への返答が異常に遅くなるという症状で思考機能の減退と混乱が見られます。
思考奪取自分の考えている内容が他人から抜き取られたり、覗き見られていると思い込んでしまう症状です。自閉自分の内面的な世界に閉じこもってしまって、外の世界や他人に対して全く興味関心がなくなってしまう症状です。
思考の吹入自分の考えている内容が、他人から無理矢理吹き込まれたものだと思い込んでしまう症状です。意欲の減退何事に対してもやる気が湧かず、行動力が著しく落ちてしまう不活発な状態です。
妄想気分・妄想知覚明らかに現実的な恐怖がないのに、何か恐ろしいことが起こるに違いないと確信して不安な気分になる症状。
外界の事物に対して自分だけにしか分からない意味を与えて知覚したり、雨の日には不幸が起こるなど、本来、関係のないものを結びつけて迷信的に信じたりする症状。
思考力・集中力・記憶力の低下複雑な物事を論理的に考えることが出来なくなったり、学習活動を行うことが非常に苦痛になって効率も上がらなくなります。
連合弛緩今まで学習してきた観念の連合(言葉とモノの結びつき・意味の関係性)がバラバラになり、話していてもあるテーマから、突然、何の脈絡もなく別のテーマに飛躍したりします。この症状が進行すると、話している内容が支離滅裂となり、通常のコミュニケーションが難しくなります。快感の消失・非社交性自閉と関連した症状で、性的な欲求や関心が弱まり、性や遊びで快感を得る為の欲求が消失し、社会参加して他人と積極的に関わっていこうとする意欲がなくなります。
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統合失調症の薬物治療では、抗精神病薬というドーパミン系神経の過活動を抑制する効き目の強い薬剤が使われますが、従来の抗精神病薬は、陽性症状にはよく効くのですが、陰性症状にはほとんど効果がありませんでした。現在では、非定型抗精神病薬という薬剤が開発されて、陰性症状にもある程度の改善効果が期待できるようです。

明らかに現実に起こっていない事を現実であると思い込む妄想(delusion)の症状には様々な種類があります。

『迫害妄想(被害妄想)』というのは、実際には誰も攻撃したり、命を狙って付け回したりしていないのに、『誰かが自分を殺そうとして監視している』『○○が自分を社会的に失墜させる為に悪口や名誉を傷つける噂をみんなに流している』というような妄想を抱くことです。

『誇大妄想』というのは、実際の自分の実力や状況を正しく認識することが出来ずに、『自分は世界一の大富豪で、何でも思い通りにコントロールすることが出来る』とか『自分は生まれながらの天才で、この世で知らない事は何もない』というような過大評価を行き過ぎた誇大な妄想を抱いてしまうことです。

『関係妄想(関連妄想・関係念慮)』は、自分とは全く関係のない出来事を、自分に関係があることだと思い込んでしまい、『道を歩いている人や店員が笑ったのは、自分を見て馬鹿にして笑ったに違いない。きっと誰かが自分の悪い噂をばら撒いて広めているのだ』『自分の車が故障したのはきっと自分に悪意を持っている人物がいて、その人物があらかじめ車に仕掛けをしていたに違いない』といった客観的な根拠のない偶然の出来事を自分に関係付けて考えてしまう妄想のことです。

『罪業妄想』というのは、自分が実際に犯罪を犯していないのに、『自分は恐ろしい殺人事件を起こしてしまった。昨日、テレビのニュースで放送されていたコンビニ強盗事件の犯人は、実は私だったのだ』といった形の罪悪感に関する根拠のない妄想のことをいいます。

『嫉妬妄想』というのは、夫婦や恋人の間に見られる妄想で、実際には浮気も不倫も起こっていないにもかかわらず、自分の彼氏・彼女・配偶者が自分を裏切って浮気をしたり不倫をしたりしているに違いないといった妄想を抱くことです。

『身体妄想』というのは、自分の顔や身体に関する間違った認知のことで、自分の顔が人に見せられないくらいに醜く変形してしまったとか、自分の身体の一部分の形や調子がおかしいなどという妄想のことです。

統合失調症をより良く寛解させていくには、周囲の人たちが統合失調症の症状の発症に出来るだけ早く気付き、出来るだけ早い時期に治療を受けるという早期発見・早期治療がとても大切になってきます。

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