嗜癖問題(物質・人間関係・行動パターンの嗜癖)

『嗜癖問題』とは、『ある行動パターンや物質、人間関係にのめり込む事で引き起こされる問題群』のことです。嗜癖というのは『特定の行動パターンや習慣的行為への執着・耽溺』を意味します。

『嗜癖(addiction)』そのものは嗜好が強まったもので、病気ではない『習慣的行動(飲酒・喫煙・趣味的娯楽)』も含みますが、その程度が激しくなると、『(薬物・アルコールなどの)乱用(abuse)』『(その行動をしないと離断症状がでる)依存症(dependence)』といった病的な状態になっていきます。

一般的に依存症と呼ばれる『身体に悪いし、周囲に迷惑をかけると分かっているのにやめられない行動』や『経済的・社会的・職業的な不利益を受けると分かっているのにやめられない行動』が嗜癖と呼ばれる問題で、一般に考えられている以上に現代社会の中で深刻な大きな問題となってきています。

嗜癖は、のめり込み耽溺する対象が何であるかによって種類が分かれてきます。

アルコールや薬物などの物質への嗜癖をまとめて『物質嗜癖(Substance Addiction)』と呼び、その程度が増すと、『物質乱用(Substance Abuse)』そして、アルコール依存症や薬物依存症といった『物質依存症(Substance Dependence)』へと進行していきます。

ある『行動プロセスに依存』してしまうといった嗜癖問題もあります。行動プロセスへの依存(嗜癖)には以下のようなものがあります。

買い物をしないと情緒不安定になる『買い物依存症』、毎日ギャンブルをせずにはいられない『ギャンブル依存症(病的賭博)』、特別に必要なお金ではないのに、買い物やギャンブルをする為に借金を繰り返す『借金癖』、痩せる事への強迫観念に囚われてしまい食事をとることを拒絶したり、反対に痩せ願望を抱えつつもストレス解消のために異常に食べ過ぎてしまう『摂食障害(神経性食欲不振症・神経性大食症』、仕事をしていないと生きているという実感がなかったり、落ち着かなかったりする『仕事中毒(ワーカホリック)』などがあります。

物質への嗜癖、行動プロセスの嗜癖以外にも『人間関係への嗜癖』というものがあります。

人間関係への嗜癖には、恋愛を絶えずしていないと孤独感や淋しさに押し潰されそうになるといった『恋愛依存症(Love Addiction)』やセックス(肉体関係)を絶えず誰かと持っていないと不安やストレスを感じるという『セックス依存症(Sex Dependence)』、相手から自分を必要とされ、求められる事によってしか自分の存在価値を実感できないという『共依存関係』、暴力的な感情表現しかできず、そういった関係をいつも維持しようとする『暴力的人間関係』といったものがあります。

嗜癖問題が何故、起こるのかの原因は種々様々ですが、各原因に共通するのは『人生に対する虚無感や空虚感といった虚しさ』です。自分の人生に対する楽しみや喜びが少なく、目的意識も乏しいために『未来に対する希望の喪失』を感じやすく、日常の仕事や家庭のストレスに負けてしまって、『一時的な快楽へと逃避』してしまうところに嗜癖問題の原因が求められます。

嗜癖の程度が進行して、対象(アルコール・薬物・人間関係・ギャンブルなど)へののめり込みが強くなり完全にその行為に没頭して『依存症の段階』になると、通常、個人の意志や決意だけでは依存症の状態から立ち直ることは不可能となります。

依存症になる人の心理には、共通して『人生に対する虚無感・空虚感』があり、その人生の虚しさやつらさから逃れようとして物質や人間関係にのめりこんだり、自分が生きている事の無意味さに絶望して依存症に陥ったりします。依存症には様々な種類がありますが、依存症を形成するメカニズムは殆ど同じなので、依存症になりやすい人はいくつかの依存症に同時に罹ることがあります。例えば、アルコール依存症と薬物依存症、アルコール依存症とギャンブル依存症、ギャンブル依存症と買い物依存症そして借金癖などといった感じで同時に二つ以上の嗜癖問題を抱え込むことが多いのです。

こういった一人の人が二つ以上の嗜癖問題を合併して引き起こすことを『クロス・アディクション(Cross-Addiction)』といったり、『多重嗜癖』といったりします。また、アルコール依存症だった人が、お酒は飲まなくなったのに、薬物に依存するようになったり、ギャンブルにのめり込んで大金を浪費してしまうようになったりといった形で、次々とのめり込む対象が変わっていく『依存症状の遷移』が見られる事があります。

更に、嗜癖問題で深刻なのは、家族に依存症の問題を抱えた人がいると、他の家族も依存症になってしまう可能性が非常に高くなってしまい、一家揃って何らかの依存症に罹ってしまう『家族集積性』が見られるということです。

典型的な家族集積性を考えてみると、父親がアルコール依存症で暴力的関係を家族に対してもっている場合、母親がその父親に情緒的に依存して、父親も母親を支配することで依存しているといった『共依存の問題』があり、息子がむしゃくしゃする気持ちを解消するためにドラッグ中毒になっていて、娘が絶えず異性と深い関係を維持していないと精神的に不安定になってしまう恋愛依存症になっているといった状況のことです。これは、そのまま機能不全家族の問題であり、子ども達はアダルトチルドレンになってしまうリスクを絶えず背負っています。

現代では、こういったアルコール依存症や共依存関係にある両親を持っていて、自分自身もアルコールやドラッグ、セックスなどに対する依存症の問題を抱えてしまっているアダルトチルドレンの人たちが非常に多くいると考えられています。

上記のように、嗜癖問題の原因の中心には『人生全体や家族関係に対する空虚感・虚無感』と『精力的に目的を持って生きる事に対する意欲の欠如』があります。その事から、嗜癖問題を解決する為に、禁酒や節酒を勧めたり、ドラッグをやめるように強く説得したり、自分を不幸にするような破滅的な異性関係をやめるように指導するだけでは、全く『本質的な問題解決策』にはならないという事が分かると思います。

嗜癖・依存症が起こってくる背景には、多くの場合、機能不全家族の問題が潜在的にあります。また、依存症になる人が家族成員の中に出てくると、健全な家族の雰囲気や秩序が崩れて、人間関係が疎遠になり家族機能が障害されてきます。アダルトチルドレンが生活してきた環境というのは、もともと、酒害家庭の環境だったことからも、アルコール依存症などの問題とアダルトチルドレンの問題が切り離せない密接な関係を持っていることが分かります。アダルトチルドレンは、現在では『機能不全家族で育てられた人(ACOD:Adult Children Of Dysfunctional Family)』を意味しますが、元々は『アルコール依存症の親に育てられた人(ACOA:Adult Children Of Alcoholics)』を指していました。

機能不全家族の中で育った子供が大人になって、アダルトチルドレンとなり、心の病気に罹りやすくなったり、深いトラウマを抱えて慢性的な不安や恐怖に苦しむことになります。つまり、嗜癖問題と依存症によって、機能不全家族が生み出され、その機能不全家族の中で幼い子ども達が虐待や育児放棄といった形で心に傷を負います。その結果、その子ども達が大きくなって、親と同じように嗜癖問題を抱えて、酒・ギャンブル・薬物などの依存症になるリスクが高くなってしまうのです。

実際問題として、虐待や育児放棄、不十分な愛情による育児が起こる家庭というのは、何らかの依存症を持った親が居ることが多いのです。アルコール依存症の親がいれば、家庭内で暴力的な支配・被支配関係が生まれやすくなり、泥酔した親は冷静な判断ができずに、すぐにカッとなり子どもや配偶者に暴力を振るいやすくなります。その上、アルコール依存症の人は、一日中、アルコールを摂取し続けているので、いつも酩酊状態にあり、落ち着いて話し合いが出来る状況が無いという事が最大の問題です。人間関係を正常化する為の冷静な話が出来ない混乱した状態が何年も続けば、家庭の機能が麻痺して崩壊してしまうことは容易に想像がつきます。その安心して助け合いながら生活できる家族機能が崩壊した家庭が『機能不全家族』と呼ばれるものなのです。

また、依存症を持っている親は、そのことを外部に漏れないように細心の注意を払って、世間体を取り繕っていることが多いのです。その為に、周辺の住民には仲の良い理想的な家族と認識されていて、まさかその家庭に依存症の人が居るとは思われていないし、子どもに対する残酷な虐待や配偶者に対する激しい暴力が行われているとは夢にも思われていないのです。

機能不全家族で子ども時代を送らなければいけない子ども達は、子どもらしく親を信頼したり、甘えたりする事が出来ず、いつも親の顔色を窺って恐怖に怯えながら生活しているので、健全な精神の発達をすることが非常に難しくなります。その子ども達は、まだ未成熟な精神と身体で、親から持続的な虐待(身体的虐待・精神的虐待・性的虐待)を受け続け、慢性的な深刻なトラウマ状態にあると考えられるからです。

機能不全家族の中では、一般的な愛情と信頼で結ばれた親子関係や親から社会規範や礼儀作法、豊かな感情表現を学ぶ機会がありませんから、子ども達は間違った物事の考え方や感情表現の仕方を無意識のうちに学習してしまうのです。

よく機能不全家族の内部にあるルールとして例示されるのは、『しゃべるな!信じるな!感じるな!』という暗黙のルールです。

嗜癖問題を抱えている両親は、その問題を解決する為の真剣な話し合いをすることはありません。子ども達は、深刻な問題をお互いに冷静に話し合って解決していくという民主的な対話や議論の方法を学ぶ事が無く、暴力や罵倒、悪口によって相手を支配して言う事を聞かせるといった『間違った暴力的なコミュニケーションの方法』を学習してしまう危険があるのです。

また、身体的に弱い子どもは、両親の機嫌を損ねて怒らせないように、自分自身の考えや気持ちを言葉に出して訴えたり、質問してはいけないという価値観をもって子ども時代を過ごします。これが『しゃべるな!』という家庭内のルールにつながっていくのです。両親は、子どもとの関係を正常なものにしようとして努力することはなく、多くの深刻な家庭内の人間関係の問題が話し合われることなく放置され続けます。そうした中でも、両親は子ども達に『世間体や見栄を保たなければならない。家庭の秘密を外部に漏らすとみんなが恥をかいて大変なことになる』といった自己保身的な価値観を子どもに教え込んでいきます。その為に機能不全家族の内情が周辺住民に漏れることなく、家庭内の嗜癖や虐待の問題が周囲から隠蔽され続けることで、誰もその家族に心理的援助や行政的対応を取ることが出来ないといった事態になり、子ども達は悲しみと苦しみを味わい続ける事になります。

そういった嗜癖問題の隠匿とも関連してくるのですが、嗜癖問題の特徴として『否認の病気』であるということが良く言われます。つまり、自分がその問題や感情を認めてしまうと立場が悪くなったり、不快や不安を感じてプライドが傷ついたりするので、自分や家族が依存症であることを決して認めようとせず、否定する傾向があるのです。

そういった非常に長期にわたるトラウマ的な環境の中で生活することを強いられた子ども達は、自分自身の感情を言語化したり、訴えたりする事が少なくなります。反対に自分の苦しみや悩みなどの感情をあからさまに出すことは、両親を困らせ怒らせることにつながってしまうと解釈して、機能不全家族の暗黙のルールである『感じるな!』というルールを自然に身につけてしまうのです。

更に、両親が自分を虐待して苦しめ続け、そういった状態でも誰も周囲の人たちが助けてくれない期間が長くなる事で、この社会に生きている全ての人を信用する事が出来ないし、信じたとしても手ひどく裏切られて、もっと悲しくて悲惨な思いをしなければならないという価値観を持つ事になってしまいます。そうして、『誰も信じるな!』という暗黙のルールにも無意識の内に従ってしまう事があるのです。

そういった他人を信頼できず、自分の苦悩や悲しみの感情を表現できない苛酷な環境、また、真剣に自分達が抱える問題の解決を探る為の話し合いがなかった環境で成長していった子ども達は、思春期から成人期にかけて、様々な感情・行動・思考・精神の問題や症状を起こしやすくなるというリスクを抱えることになってしまいます。対人関係の持ち方の特徴として、過度に相手に対して暴力的で支配的だったり、反対に一方的に相手に依存して頼りがちだったりします。そういった数々の精神症状や対人関係の結果として、『各種の依存症』『共依存』の問題が発生してくるのです。

以上のように、嗜癖問題・虐待問題・共依存といったものは、アダルトチルドレンという状態を挟んで親から子へと世代連鎖していく危険性があるので注意が必要です。もちろん、そういった傾向が見られるというだけで、機能不全家族で育った人がみんなアダルトチルドレンになるわけでも、嗜癖問題を抱えるわけでもありません。

個人のストレス耐性や性格傾向の違いや成長後に出会った人たちとの人間関係の違い、自分の苦しく悲しい過去をどのように認知して再解釈しているかの違いによって、生育環境が同じでも、大人になってからの心理状態や対人関係は全く変わってくるのです。

家族全体の嗜癖問題を解決するきっかけになるのは、家族の中でもっとも精神的に健康であり、自立心と常識的感覚のある人が、『家族の秘密を外部にしゃべってはいけないという暗黙のルール』を破り、『否認の病気である依存症(嗜癖問題)』を明るみに出して、精神医療関係者やカウンセラーに相談に行くことです。

自分が異常な家庭関係で生活している事や自分の両親が依存症という精神的な病気を抱えている事、家庭の中で虐待や暴力といった問題が日常的に起きている事から目を逸らさずに直視することはとてもとてもつらくて耐え難いことです。だからこそ、大勢の人がそういった問題を無いものとして自分自身をも欺いて騙してしまうのです。そうすれば、嗜癖や虐待といった問題を正面から見つめる必要もなく、外部に対して自分達の恥部を曝すこともなく、今までと変わらない生活が出来て気が楽だと考えてしまいがちになるのも無理はありません。

しかし、両親のためにも、兄弟姉妹のためにも、自分自身のためにも、嗜癖や虐待といった機能不全家族特有の問題が存在することに気付いて、それが間違っている悪いことだとしっかりと認識することが出来たならば、それを解決する為に、ありったけの勇気を持って外部の信頼できて力になってくれそうな人たちに相談することが必要です。その知り合いや親族の人たちに相談しても何の力にもなってくれないということならば、やはり、精神医療関係者やカウンセラー、心理学研究者などの専門家の力を頼る必要があるでしょう。嗜癖問題は基本的にその家族の内部の話し合いや説得だけでは、解決することが難しい非常に治しにくい問題なのです。

依存症や虐待の問題を解決する為の第一歩は、その状態が異常でおかしいことに気付き、それを正常な状態に回復したいと考える常識と理性ある人が家族の中に現れて、家族以外の第三者にありのままの家族の状態を話して相談するところから始まるのです。この家族問題を初めて外部に相談して支援を求める人を、ファースト・クライアント(First Client)といいますが、カウンセラーなどの相談者はこのファースト・クライアントの話す苦しみや悩みを真摯に聴いて、支持的な言葉を積極的にかける必要があります。今まで、長い間、誰にも話せなかった家族の秘密を勇気を持って自分に話してくれたファースト・クライアントの勇気ある決断を賞賛して、今後も嗜癖や虐待の問題を解決する為に全力を持って支援することを告げ、その相談者を含めた家族全員で真剣に嗜癖問題についての話し合いの場を何とかして作り上げていかなければならないのです。

依存症者本人が相談の場に来てくれない場合もありますが、その場合でも他の家族の人たちと依存症解決の為の方法や依存症者との関係や対話の持ち方を話し合うことで家族全体の雰囲気がまるで変わってきて、家庭機能が少しずつ回復し、依存症の状態にも良い変化が出て来ることがあります。

家族の中で嗜癖や虐待の問題が確かにあると言う事をより多くの家族構成員が認識し、解決の為の意志や動機を持つことで、家庭内の雰囲気や価値観は大きく変わっていきます。問題が存在していないという否認の病気である依存症を回復していく為には、『依存症や暴力などの家庭内の問題があるという承認』をしていくことがまず重要になってくるのです。その際に、家族以外の親族や友人知人、会社の同僚の方々が依存症の問題を理解してくれて、問題解決に積極的に協力してくれるならば、更に回復の可能性は高まっていきます。

ここまで述べてきたように、嗜癖問題・依存症問題は、『閉鎖的な家族の病気・家族機能の障害』であるという観点がとても重要で欠かすことが出来ません。

アルコール依存症

酒を飲むという行為を自分で適度にコントロールすることが不可能になり、ほぼ一日中何らかの形でアルコールを摂取していないと離脱症状(禁断症状)がでて、社会生活を正常に行うことが出来なくなってしまう依存症の病気です。

アルコールは確かに神経活動を活発にして、理性的な思考や論理の働きを抑制させる作用があるので、精神的なストレスや緊張を和らげリラックスさせる効果があります。それは、人によってはとても魅力的な幸福感や快感として認知される習慣性のある刺激になります。酒を飲むことで、日常生活の嫌な出来事を忘れたり、酒の勢いでストレスを発散することが習慣になってしまうと、その心地良い酩酊状態(酔った状態)に依存してしまうことがあります。

飲む酒量と頻度が限度を越して増えると、酒を飲むことをやめようと思ってもやめられない依存症という病的状態になってしまいます。

依存状態には、『精神依存性』『身体依存性』の二つがあります。初めに形成されるのは、精神依存性で、絶えず『アルコールを飲みたい』という欲求や願望のある精神状態になっていて、仕事の終わりが近付くと頭の中はお酒を飲むことばかりを考えているような状態です。それは意識してお酒を飲みたいと思っているのではなく、習慣化した飲酒の為に自動的に頭の中に酒を飲みたい、酒を飲まなければならないといった強迫的な欲求や思考のイメージが湧き上がってきてしまうのです。

この段階でもアルコールにかなり依存しているのですが、精神的依存が続いて毎日お酒を飲んでいると、身体がアルコールに慣れてきて耐性が出てきます。耐性が出てくると、少量のお酒では全く酔えなくなるので、次第に飲むお酒の量が増えてしまうのです。1日の酒量が日本酒で5合を超えると、体内で分解されないアルコールがいつも身体に残っている状態になり、身体の器官や神経が『アルコールが血中に溶けている状態を正常』と感じてしまうようになります。

こうなってくると、お酒が飲めずに血中のアルコール濃度が下がった時に、手の振るえ(振顫)や悪寒(寒気)といった離脱症状(禁断症状)が現れる身体依存性が形成されて、本格的なアルコール依存症の状態になります。

身体依存性が形成されると、本人の意志でアルコールを飲む飲まないといった判断をすることがほぼ不可能になり、朝でも晩でも、仕事でも休みでも、いつでもアルコールを飲み続けなければ禁断症状が出てしまう非常に苦しい状態になってしまうのです。この状態では、もう正常な社会生活や職業活動を行うことが不可能になり、日常生活に多大な支障を来してきます。

アルコール依存症が発症する酒量の一般的基準として、男性の場合には、1日5合の日本酒を5年間継続的に飲み続けた時に発症し、女性の場合には、1日3合の日本酒を3年間継続して飲み続けた場合に発症しやすいとされています。

アルコール依存症になりやすい人の特徴として、仕事以外に趣味や娯楽を持たない会社人間や家庭以外の場所に遊びに出て気晴らしする機会の少ない閉じ篭りがちな専業主婦に多いとされます。アルコール依存症の人たちは仕事や家庭でのストレスを発散する為にお酒を飲む習慣をつけるところから病気の入口に立つことになるので、お酒を飲むこと以外のストレス解消法や趣味娯楽を持つことが非常に大切になってきます。

身体依存性が形成されてしまったアルコール依存症は、本人が『飲まない』と決意しても、飲まないでいると苦痛でつらい離断症状がでてしまうので、とても困難で治り難いのです。アルコール依存症の医学的治療には、『抗酒薬』という薬物が使われます。この薬は、お酒の飲めない体質を薬物の作用によって一時的に作り出すことで、お酒をやめることが出来るように助けるものです。

抗酒薬の作用機序は、体内に入ったアルコールが有毒性を持つアセトアルデヒドに変わった際に、そのアセトアルデヒドを分解して無毒化する酵素の働きを抑制して、二日酔いや悪酔いの時のような気持ちの悪い吐き気がするような状態、不快な状態を作り出してお酒を飲めないようにするというものです。

一般的にお酒が強い人、弱い人というのが分かれますが、その違いは、このアセトアルデヒド分解酵素の働きの強さの違いであると考えられます。そして、アルコール依存症になりやすい人というのは、このアセトアルデヒド分解酵素の働きが比較的強い人です。初めから少量のお酒で気分が悪くなって吐いてしまうような人の場合は、飲酒がストレス解消にはなりませんからアルコール依存症になる確率は低いと思われます。

勿論、抗酒薬や向精神薬などの薬物療法だけでは、アルコール依存症の場合には再発の可能性が非常に高いので、その依存症の背景にある家族の人間関係の問題や機能不全家族といった家族の病をカウンセリングや心理療法によって癒して回復していかなければなりません。

機能不全家族といった問題を抱えていなくても、仕事や人間関係のストレスからアルコール依存症に陥ってしまう危険性は絶えずあります。一般の人でも、『お酒は適量を、家族や友人との会話をメインにしながら楽しむ』といった心がけが大切です。

薬物依存症

薬物を摂取する事によって得られる一時的な陶酔感や恍惚感の中毒になってしまい、その薬物を摂取することが他のどんな行動よりも優先されて、薬物の使用をコントロール不可能になった状態が薬物依存症です。

薬物依存症と聞くと、多くの人は違法な薬物、覚醒剤やコカイン、ヘロイン、大麻といった麻薬の服用や注射を想像すると思います。そういった非合法な薬物への依存は確かに非常に強力で、いったんその薬物への身体依存性が形成されてしまうと激しい苦痛と不快を伴う離断症状(禁断症状)のために薬物をやめることが事実上不可能になります。更に、覚醒剤などの精神作用の強い薬物の場合には幻覚や妄想などの副作用に襲われて、他人を傷つける犯罪行為に及んでしまうこともあり、悲劇的な結末に終わる危険性が絶えずあります。

非合法な薬物以外にも、精神に軽微な影響を与えるような鎮痛薬や咳止め薬があり、通常の用法用量では問題がなくても、大量服用することで特有の恍惚感やリラックス感を生じて依存性が形成されることもあり、過剰服用による副作用の心配も出てきます。こういった比較的、一般の薬局で入手が容易な薬品による依存症が最近、若者や主婦の間で問題になっていて、一時期は『ブロン依存症』(ブロンというのは薬剤の商品名)などとも呼ばれていました。

その他にも、有機溶剤のシンナーやトルエンは脳神経に働きかけて意識を混濁させたり、多幸感や幻覚を起こしたりする作用があり、習慣性と依存性があるので、薬物依存症を容易に引き起こします。

薬物依存症というのは、『その場の一時的な快楽や陶酔』を求めて、副作用のある薬物を摂取することに依存してしまう事ですが、当然、期間と用量が多くなるほど身体に深刻なダメージを与える事になります。

薬物依存症の治療では、薬物をやめる際に起こる離脱症状(禁断症状)をどう和らげるかが問題になってきます。多くの薬物依存症者は、この禁断症状の耐えがたい苦痛を我慢できずに、再び薬物に手を出してしまいやめられなくなるという悪循環を延々と繰り返してしまいます。

副作用は薬剤の種類によって様々ですが、恐怖を感じる幻覚や誰かに殺されるといった深刻な被害妄想から、脳神経の器質的障害、心臓や血管の異常、自律神経系の障害、不快感、不安感、不眠など実に苦しい症状に悩まされる事になります。

薬物依存症の治療は、在宅では薬を摂取しないという管理や監督・監視が非常に難しいので、殆どは病院に入院しての入院治療となります。

以下に薬物依存症を引き起こし易い薬物を上げておきます。極めて危険性が高いので、絶対に次のような薬剤を使用しないようにしましょう。破滅的な薬物の使用の誘惑をしてくる悪質な人間も現代社会には多いですが、その時にはきっぱりと断る勇気を持つことが大切です。入手経路が明確でない怪しい薬剤を、人の簡単な説明だけで服用するのは非常に危険です。薬とは作用と同時に必ず副作用を伴うものですから、必ず医師や薬剤師を通して処方してもらうか、信頼できる市販薬を使用する必要があります。

薬物依存症を起こす薬物『らくらく入門塾 なぜ心が病気になるの?』 墨岡 孝 著 ナツメ社のp137,薬物依存症の項より抜粋
種類俗称薬物の影響副作用
覚醒剤スピード、エス、アイス、シャブ、クリスタルなど幸福感、爽快感、疲労回復、食欲軽減、集中力・頭の回転の増加、気分の高揚など身体的副作用
血圧上昇、脳血管障害、心筋梗塞、早産流産など

精神的副作用
不安感、不快感、倦怠感、恐怖感、不眠、攻撃性など
大麻マリファナ、グラス、チョコ、ハシシ、ハッパ幸福感、陶酔感、くつろぎ感、時間感覚の麻痺など身体的副作用
結膜の充血、口渇、食欲亢進、脳の萎縮など

精神的副作用
不安感、恐怖感など
コカインクラック、コーク、スノーなど幸福感、爽快感、疲労軽減、気分の高揚など身体的副作用
頭痛、不整脈、心筋梗塞、脳血管障害、体重減少など

精神的副作用
憂鬱感、集中力の低下、攻撃性、不眠など
幻覚剤エクスタシー、LSD、サイケデリックス、サイケなど幻覚、知覚の鋭敏化、恍惚感など身体的副作用
血圧上昇、体温上昇、ふるえ、瞳孔の拡大など

精神的副作用
不安感、緊張感、情緒不安定など
シンナー、トルエンアンパン、ネタ、純トロなど幸福感、浮遊感、意識朦朧など身体的副作用
窒息、不整脈、嘔吐、腎臓・肝臓障害など

精神的副作用
錯乱、衝動性、記憶喪失(健忘)など
アヘン系麻薬
(モルヒネ・ヘロイン)
スマック、ジャンク、チャイナホワイトなど幸福感、陶酔感、気分の落ち着きなど身体的副作用
倦怠感、ふるえ、便秘、早産・流産など

精神的副作用
憂鬱感、集中力・判断力の低下、無気力など

ギャンブル依存症(病的賭博)

ギャンブルというのは、『本質的に予測不可能な出来事に対して金銭を賭けて、その賭けた金額以上の金銭を勝ち取ろうとする行為』の事です。

ギャンブルには、“絶対に確実”という保証がなく、“確率論的に勝ち負けが決定”するという“不確実性のスリル”“勝ったときの興奮や爽快感の強い印象”がギャンブル依存症につながっていきます。

『ギャンブル依存症』というのは、金銭的に大きな損失をこうむる危険性のあるギャンブルという行為を自分の意志でコントロールすることが出来なくなり、やめようと思ってもやめることが出来なくなった依存性が形成された状態だといえます。ギャンブル依存症は、DSMなどで規定される医学的な精神疾患の分類ではありませんが、ギャンブルに依存してやめたくてもやめられず、経済的に破綻してしまう人が増えているという社会現象の観察から考案された異常に偏った心理や行動を指し示す概念です。

ギャンブル依存症になると、仕事や勉強よりもギャンブルを優先するようになり、友人との交際、恋人や配偶者・子どもとの約束を無視してでも、ギャンブルを優先するようになります。前日から計画をたてて、ギャンブルをする為にパチンコ店や競馬場などに出向くようになります。その上、計画を立てた前日にも既にギャンブルにいっていて、大金を使っていたりするのです。

そのため、思考・行動・意欲の全てが長時間ギャンブルをする為に向けられて、他の事がまるで手につかなくなり、周囲の人が経済的に困窮しないか心配してギャンブルをやめるように注意しても、全く聞く耳を持たずに逆に不機嫌になって喧嘩になったりします。ギャンブル依存症になってしまうと、自分がどれだけの金額をギャンブルで失ってきたかというような合理的な判断や周囲の妥当な忠告を受け入れることが出来なくなるという特徴があります。

また、今までかなりの金額をギャンブルにつぎ込んでいることが分かっていても、本人は客観的な根拠のない自信や怪しげな必勝法に基づく確信を持っていて、『今度こそは絶対に大勝ちして今までの損失を全て取り返すことができる』と周囲に自慢げに語ったりもします。

限度をわきまえて、時々、気分転換のための娯楽としてギャンブルを楽しめば、非日常的なスリルや興奮を適度に味わう事が出来て、変化の少ない日常生活を豊かにしてくれる事もあるでしょう。

しかし、ギャンブルに収入の大半をつぎ込んだり、仕事もホッポリだして毎日毎日パチンコや競馬をしているといった状態になれば、家計は苦しくなり、夫婦関係も悪化して社会的・職業的・経済的に大きな損失を出してしまう事になり、最終的には自己破産して今までの生活の全てを失う恐れさえあります。

ギャンブル依存症になりやすい人は、毎日の現実的な日常生活に不満やストレスを抱えていて、『人生の虚しさや無意味感』を感じている人が多いようです。

ギャンブル依存症の人たちは、その苦痛な認めたくない現実から逃避するためにギャンブルにのめり込んで、心理的なストレスだけでなく、経済的にも手痛い打撃を受け、更に気分も落ち込みギャンブルに救いを求めてしまうという悪循環を形成してしまうのです。

ギャンブルは、確かに非日常的なスリルや独特な面白さがありますが、その非日常的な刺激や快感に慣れてしまうと、金銭感覚が完全に麻痺してきて、更に大きな刺激を求める傾向があります。その為に、ギャンブルにつぎ込む金額は次第に大きくなり、ギャンブル依存症という心理的な問題から二次的な金銭トラブルへと発展していきます。重度なギャンブル依存症に陥って、どうしてもギャンブルをするお金が欲しいために、強盗や窃盗といった犯罪行為に手を染めてしまう可能性さえ否定できないのです。

ギャンブルは基本的に、ギャンブルをするお客よりも、ギャンブルを主催している国や公共機関、パチンコ経営者が利益を上げるシステムになっています。だから、ギャンブルをしている人の大半は必然的に勝ちよりも負けが多くなります。更に、『他の人は負けているが、自分だけは勝つ方法を知っている』という根拠のない確信に浸ることが、一番、ギャンブル依存症の発症を引き起こし易いのです。

消費者金融に手を出すほどにギャンブルにのめり込まないようにする為には、ギャンブルを適度な趣味や娯楽として限度をわきまえて楽しむ事が大切なのですが、ギャンブルはその性格として依存性を持ちますので、出来るだけ手を出さない方が安全かもしれません。

また、どうしてもギャンブルをしたい人で、ギャンブルをする場合には、細かく勝った金額(利益)と負けた金額(損失)をノートにつけていき、一ヶ月でどれくらいの利益・損失があったのかを自分で客観的に把握することがとても重要だと思います。しかし、心理的なストレスが原因で、ギャンブルをしてストレス解消をしているのであれば、出来るだけ違う趣味や娯楽を自分で探して楽しむほうが経済的ですし、精神衛生の面から見ても好ましいと言えるでしょう。

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