自律神経失調症

自律神経失調症は、交感神経と副交感神経の働きのバランスが崩れる事で、心身のホメオスタシス(健康な一定の状態を保とうとする恒常性)が損なわれて、身体や精神に多種多様な症状が現れる病気の総称です。

自律神経の働きの異常は、他の精神疾患や心身症とも密接な関係性があるので、自律神経失調症は各種精神疾患を包摂するものとも言え、自律神経失調症とは自律神経の機能の障害によって起きる様々な症状群と理解すると分かりやすいでしょう。

医学的な検査によって原因や悪い部分を特定する事が難しく、症状もいろいろな部分に現れたり消えたりするので、不定愁訴の苦しみへと繋がっていきます。気分が悪くなったり、めまいや吐き気がしたり、下痢や便秘をしたりといった感じで、幾つもの症状が重なる事も珍しくありません。

自律神経失調症は、発症の男女比で見ると、非常に女性に起こりやすい病気ですが、その原因として年齢と妊娠などによって大きく変化してくる女性ホルモンバランスの乱れがまず挙げられます。
女性ホルモンのバランスが崩れやすい時期としては、初潮の始まる思春期、妊娠・出産を経験する20~30代、閉経を迎える更年期、子宮や卵巣の疾患に罹患した時などが考えられます。更に、結婚した後も仕事をして積極的に社会参加する女性が増えてくる中で、家庭と仕事の両立に追われて、自分の心身の調子を省みたり、十分な休養を取る時間的余裕がなく、子供の育児に関する悩みまで一人で抱え込ませられているといった社会的状況や文化的背景といった原因も考慮する必要があるでしょう。

夫と子供など家族全員の協力を得て、自分一人が全ての家事育児を背負い込まずに、ある程度の時間的ゆとりと心理的休息を取る事が自律神経失調症の予防には欠かせないでしょう。
また、症状の出現と消失が予測できない為に、周囲の人に具体的に体調や心理状態の悪さを説明する事が難しく、自分の感じている苦痛や悩みを理解して貰うのが難しいというつらい面もあります。

自律神経失調症のメカニズムをより良く理解する為には、神経系の分類構造と機能を知っておいた方が良いでしょう。
人間の神経系は、大きく分けて『中枢神経(脳及び脊髄)と末梢神経』からなっています。末梢神経は、更に自分の意志によって自由に動かせる随意性の『体性神経(動物神経)』と自分の意志によって制御する事の出来ない『不随意性の自律神経(植物神経)』に分類されます。

自律神経は、無意識の内に循環器系・呼吸器系・消化器系の身体機能を調節して、環境や状況に適応して働きます。自律神経は、更に『交感神経』『副交感神経』からなっていて、交感神経は基本的に神経活動を活発に促進する働きをする『活動する神経』で、副交感神経は基本的に神経活動を安定させて抑制する働きをする『休養する神経』と言えます。

交感神経は、主として、昼間に働く割合が多く、副交感神経は夜間に働く割合が多い神経です。
交感神経と副交感神経は、絶妙なバランスをとって相互に影響を与え、協力しながら安定した体調や心理状態(ホメオスタシス)を維持しています。しかし、遺伝的体質や心理的ストレス、社会的環境の変化、生活習慣の乱れ、性格的傾向など様々な要因によって、どちらかの神経が過剰に働き過ぎたり、働きが弱くなり過ぎたりするとバランスが崩れて、自律神経失調症による心身の症状が現れてくる事になります。

交感神経・副交感神経の働き
作用する身体器官交感神経の働き副交感神経の働き
精神活動促進・興奮させる抑制・鎮静させる
瞳孔拡大する縮小する
呼吸激しく速くする穏やかにゆっくりする
皮膚発汗させ鳥肌をたてる乾燥させる
心筋収縮させる弛緩させる
心拍数増加させる減少させる
血圧上昇させる下降させる
膀胱尿を溜める排尿する
ホルモンの分泌促進する抑制・安定させる
血糖・血中脂質上昇させる安定させる
生殖器子宮の収縮・排卵の促進子宮を弛緩させる
消化器・消化液の分泌抑制する促進する

(他の器官と異なり、消化器系の活動は、交感神経によって抑制され、副交感神経によって消化が促進される点に注意!)

また、感情の波や変化とも、自律神経は密接に関係しています。
リラックスして安定した精神状態にあり、穏やかな気持ちの時には、副交感神経が優位となって非常にバランスの取れた状態ですが、激しく怒ったり、突然の出来事に驚いたり、強い恐怖感を感じた時には、交感神経が各身体器官に働きかけて活動を促進し、精神と神経を興奮させます。

また、持続的な不安感や緊張感を感じていたり、長期間のストレスでイライラしている時などには、交感神経と副交感神経のバランスが継続的に崩れていて、両方の神経が不規則に興奮している状態になっている為に適切な身体・精神活動が行われていないと言えます。
憂うつで元気が出なかったり、心身共に疲憊してダウンしていたり、近親者や親しい知人の死などで深い悲しみに沈んでいる時などは、意欲や活力がなくなり、交感神経と副交感神経の両方の働きが抑制されて働いていない状態になっていると考えられます。

脳との関係を考えると、自律神経系は内分泌系と共に大脳の一番内側に位置する『視床下部』によって制御されています。大脳の視床下部は、呼吸や心臓の運動、更に身体各器官の働きの微妙な調整など生命にとってもっとも大切で必要不可欠な基本機能を司っている部分と言えるでしょう。

自律神経のバランスが崩れた時には、初めに書いたように、あらゆる身体部位に実に多種多様な症状が現れてきます。それらの症状群が単独で現れたり、あるいは重なり合って次々と出現し、現れたり消えたりを何度も繰り返します。そして、症状の種類や程度には、非常に大きな個人差があります。

病院で検査をしても原因不明な以下のような不快症状には、自律神経失調症の可能性を疑う必要があるかもしれません。
(自律神経失調症は、単一の病気というよりも複数の疾患をとりまとめた総称ですから、以下に当て嵌まる場合には、うつ病、パニック障害、不安障害や精神分析学でいう所の神経症である可能性も十分にあり得ます。正確な診断には、専門家による詳細な心理評定尺度や心理測定を受けてください。)

そして、自律神経失調症には、以下の4つのタイプがあるとされています。

自律神経失調症には、不眠・食欲不振・疲労感・めまいといった『全身症状』と頭痛・肩こり・胃痛といった『部位別症状』がありますが、以下に各身体部位に現れる症状をまとめておきます。

自律神経失調症の症状一覧
身体部位症状
頭痛、頭重感
眼精疲労、涙目になる、ドライアイ、目が開かない
口渇、味覚異常、口中の痛み
喉がつまった感じ、異物感、イガイガ、圧迫感
耳鳴り、つまった感じ
呼吸器系息が吸いにくい、苦しい、つまる感じ、過換気症状、酸欠感
心臓・血管系動悸、胸部圧迫感、血圧変動、胸の痛み
消化器系吐き気、便秘、下痢、腹部膨満感、食道にものがつまった感じ
筋肉・関節首・肩の凝りや痛み、背中・腰の痛み、脱力感
手・腕冷え、しびれ、痛み、ほてり、感覚異常
泌尿器系頻尿、残尿感、排尿困難
生殖器生理不順、月経痛、不感症、性器掻痒感、性交不快、インポテンツ
皮膚皮膚の乾燥、かゆみ、多汗
全身症状だるい、疲れやすい、めまい、立ちくらみ、気が遠くなる、食欲不振、不眠、微熱
精神症状不安感、イライラ、気が沈む、記憶力・集中力・意欲の低下
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