反社会性人格障害(Anti-social Personality Disorder)

DSM-Ⅳによる反社会性人格障害の診断基準
反社会性人格障害の性格行動面の特徴
反社会性人格障害の各種タイプ

DSM-Ⅳによる反社会性人格障害の診断基準

アメリカ精神医学会(APA)が作成した“精神障害の統計・診断マニュアル”であるDSM‐Ⅳ‐TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)は、世界保健機関(WHO)が定めたICD‐10(International Classification of Diseases:国際疾病分類)と並ぶ精神医学的な疾病分類と診断基準の国際的なスタンダードとなっていますが、DSM‐Ⅳによると反社会性人格障害の診断基準は以下のようなものとなっています。反社会性人格障害は、『不安定な対人関係や衝動的な行動』を特徴とする人格障害のクラスターB(B群)に分類されます。アメリカの疫学的調査によると、反社会性人格障害の発症率は人口の1.0~3.0%と見られていますが男性の発症率(約3.0%)のほうが有意に高くなっています。

DSM‐Ⅳによる反社会性人格障害(Anti-social Personality Disorder)の診断基準

A.他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以来起こっており以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される。

1. 法にかなう行動という点で社会的規範に適合しないこと。これは逮捕の原因になる行為を繰り返し行うことで示される。

2. 人をだます傾向。これは自分の利益や快楽のために嘘をつくこと、偽名を使うこと、または人をだますことを繰り返すことによって示される。

3. 衝動性または将来の計画をたてられないこと。

4. 易怒性および攻撃性。これは、身体的な喧嘩または暴力を繰り返すことによって示される。

5. 自分または他人の安全を考えない向こう見ずさ。

6. 一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。

7. 良心の呵責の欠如。これは他人を傷つけたり、いじめたり、または他人のものを盗んだりしたことに無関心であったり、それを正当化したりすることによって示される。

B.その者は少なくとも18歳である。

C.15歳以前発症の行為障害の証拠がある。

D.反社会的な行為が起きるのは、精神分裂病や躁病エピソードの経過中のみではない。

反社会性人格障害の性格行動面の特徴

法規範や社会規範を無視して他者の権利を侵害する反社会性人格障害(Anti-social Personality Disorder)の問題は、紀元前の古代ギリシアの時代から認識されており『背徳的な人間・犯罪気質の人間』などと呼ばれていました。反社会性人格障害と背徳的な人間に共通する特性は、社会規範(法規範)に違背して『他人の権利(生命・財産・安全)』を無視する反社会性(破壊的な衝動性)ですが、他人の苦痛や恐怖に共感することができない『感情麻痺(情性欠如)の要素』を持っています。『他人の痛み・恐怖』を想像して共感する倫理的感性が鈍磨しているため、他人を不条理に傷つけても『良心の呵責』を覚えることが殆どなく、同じ過ち(加害行為)を繰り返さないための反省や後悔をしにくいという問題があります。反社会性人格障害を改善するカウンセリングでは、『他者への基本的信頼感』を取り戻して自分と他人が同じ存在価値を持つ人間であることを自覚させていき、最終的に『他人の苦痛への共感性』を獲得することを目的にしています。

合理主義や経験主義といった啓蒙思想が流行した18世紀以降のヨーロッパでは、衝動的な加害行為や自己破滅的な犯罪の原因は『知的能力の低下・推理能力の欠如・人格構造の荒廃』にあると考えられていましたが、その後の実証主義的な研究によって『反社会的な行為をする衝動的な人』が必ずしも知的能力が低いわけではないことが分かりました。『反社会性・非道徳性・無反省性』などの特徴を持つ人物の理性・知能が正常であることを示唆したのは、精神病患者を閉鎖病棟から開放したフランスの精神科医フィリップ・ピネル(P.Pinel, 1745-1826)でした。

フィリップ・ピネルは、反社会性人格障害の人は知能が低くて理性的判断ができないから犯罪や迷惑行為をするわけではないとして『狂気の合理性』を主張しました。つまり、『合理的な推論・知的な思考』ができる人間でも、何らかの感情的要因や衝動的欲求によって反社会的行為を指向することがあるのであり、知能の高さや理性の働きは『善良な道徳性・安全な遵法精神』を何ら保証しないのです。

ピネルは理性・知能の低下による反社会性の増進を否定しましたが、イギリスの精神科医J.C.プリチャード『背徳性症候群』という反社会性の性格的概念をまとめて、社会規範や法律を無視して他人に危害を加える人たちは『自然な道徳感情(良心・責任感・善悪観)』に従って利己的欲望を自制する力が無いとしました。

イギリスのヘンリー・モーズレイイタリアのチェザーレ・ロンブローゾは、背徳的な犯罪者の気質・性格は生得的な遺伝と体質の要因によって規定されるという『生得的犯罪者説』の立場に立ちましたが、モーズレイは脳器官の先天的障害が反社会的な性格傾向を生み出すと考えていました。C.ロンブローゾは多数の犯罪者の身体的特徴を観察して、統計学的な根拠によって身体的特徴(大きな顎、高い頬骨、突起した目の上のアーチなど)と反社会的な性格傾向を結び付けようとしましたが、『先祖帰りした原始的な人間』が犯罪を犯しやすいとするロンブローゾの『生得的犯罪者説』は現在ではほぼ否定されています。

19世紀のヨーロッパでは、反社会的で冷酷な性格を『道徳感情の欠如』や『遺伝的な要因(身体的特徴)』によって理解しようとし、犯罪者になる可能性は何らかの生得的要因(遺伝・体質・気質)によって規定されているという決定論に傾きました。J.L.コッホの提起したサイコパス(psychopath,精神病質)という概念も、『反社会性の生得的決定論』に基づいたものでした。しかし、コッホ自身は反社会的性格が先天的なものであるか後天的なものであるかにこだわらず、『器質的(体質的)な基盤を持つ精神機能の異常』によって反社会的性格を理解しようとしました。

サイコパス(サイコパシー)は『精神病質』と訳されることが多いですが、正式には『精神病質的劣等者(psychopathic inferiority)』という意味を含んだ概念であり、コッホは反社会性や嗜虐性を高める『劣等的な体質・器質』によってサイコパスの病的な性格構造が生まれると考えました。コッホのサイコパスは現在の反社会性人格障害とほぼ同義であり、『自己中心性・無思慮な衝動性・反社会的な犯罪性・虚言癖(嘘つき)・他者への共感の欠如・反省や良心の不足』などの特徴を持っています。

精神医学の知識を体系化して教科書にまとめたドイツのエミール・クレペリン(Emile Kraepelin 1856-1926)は、反社会的なサイコパスについて『精神病質的人格』という概念で定義しています。クレペリンは、衝動的あるいは計画的に犯罪を実行する人間を精神病質的人格と考えており、『虚言癖のある詐欺師・衝動性の強い粗暴犯・計画的な知能犯など専門的犯罪者・社会的活動に適応しない放浪者』などを想定していました。エミール・クレペリンの精神医学体系の影響を受けたクルト・シュナイダー(1887-1967)は、統合失調症の診断基準として『一級症状(first rank symptoms)』を発見したことで知られますが、シュナイダーは統合失調症と精神病質的人格とを完全に分離して精神病質的人格を次の『10個のタイプ』に分類しました。

『他者の生命や権利(財産・安全・健康)』を不当に侵害する反社会的な加害性を見せやすいのはシュナイダーの人格類型の中では『爆発者・情性欠如者』であり、周囲の空気や誘いに流されて軽微な違法行為をしたり物質(アルコール・薬物)への依存症に陥ったりしやすいのは『意志欠如者』です。反社会性人格障害の人と爆発者・情性欠如者は非常に良く似た性格特徴を持っていますが、境界例(境界性人格障害)の研究で知られる精神分析家のオットー・カーンバーグは、超自我の欠如した反社会性人格障害と自己愛性人格障害の『共通点(自己中心性・自己顕示欲・共感性の欠如・過剰な優越欲求と支配欲・無謀な衝動性・適応的学習の困難・発達早期の愛情剥奪)』を指摘しています。社会環境や対人関係をどのように認知しているのかという『認知理論』の観点からも反社会性人格障害の研究は行われており、他人の権利を侵害しても構わないという反社会的な認知は『他者に対する基本的不信感・社会から不当に迫害されているという被害感情・自分を守るために他者を攻撃しなければならないという自衛の必要性』などから生まれています。

自分自身も社会や他人から傷つけられ搾取(虐待)されているのだから、自分も社会の規則を破って他人を攻撃しても良いというのが反社会性人格障害の基本的認知であり、彼らの内面世界では『幼少期から与えられてきた苦痛・屈辱』を社会に与え返すという『同害復讐法的な正当化』が為されているのです。また、反社会性人格障害の人は、幼少期の頃から他人に協力して利益を得るという『互恵性の原理』を学ぶことができなかったので、他人を信用して協調すると『自分が騙されて搾取されてしまう』という被害者意識を持っていることが多いという研究があります。反社会性人格障害の人は『他者への不信感・社会への復讐感情・道徳や法律への挑戦』によって駆り立てられており、『他者と協力する利益』よりも『他者から奪い取る利益』のほうが大きいという間違った信念を強固に持っています。

これらの他者(社会)を敵視して憎悪する悲観的認知は、『過去に誰も自分を助けてくれず社会が自分に苦痛・侮辱を与えたというトラウマ』に由来していますが、彼らは他人に賛成して協力することを『他者への従属・自己アイデンティティの崩壊』と認知する傾向があります。精神分析家のレアリーは、反社会性人格障害に特有の他者・社会を否定しようとする適応戦略を『反抗的適応』と呼びましたが、反社会性人格障害のカウンセリングでは反抗的適応を解除することが重要であり、そのためにはカウンセラーがクライエントの前で『信頼できる裏切らない誠実な他者』として振る舞う必要性があります。

反社会性人格障害の各種タイプ

セオドア・ミロンの反社会性人格障害についての仮説によると、『貪欲なタイプ・評判を守るタイプ・危険への覚悟をしているタイプ・放浪的なタイプ・悪意あるタイプ』の5つのタイプに分類することが出来ます。

『貪欲なタイプ』とは、自己愛と嫉妬心が極端に強くなっている反社会性人格障害であり、『自分の不幸な人生に対する復讐』を目的にして貪欲に他人から財産・権利を搾取し社会にダメージを与えようとします。自分に不幸な境遇を与えた社会への復讐心と自分よりも幸福な生活を送っている他者への嫉妬心によって、貪欲なタイプの人は『支配欲・所有欲』を高めていきますが、決してその欲望が満たされることはありません。社会の秩序(安全)を揺らがして他人の財物を所有することで『人生への復讐』を達成しようとしますが、貪欲なタイプの人が本当に求めているのは『他者からの尊敬と愛情・社会的に高い地位と権力』なので、不当な犯罪や攻撃、嫌がらせなどの手段によっては彼らの欲求を十分に満たすことは出来ないのです。貪欲なタイプの反社会性人格障害は、際限のない物欲や支配欲を満たそうとして必死に努力し他人を蹴落としながらある程度の社会的成功を手にすることがありますが、『人生の無意味さ・自己アイデンティティの空虚・他人への憎悪』を抱えているのでなかなか純粋な幸福を感じることができないという問題があります。社会への復讐心や他者への不信感から生まれた貪欲さが弱まってきた時に、社会的成功に見合うだけの幸福感・満足感を感じられる可能性があります。しかし、他人を信頼して社会の常識的な価値観に合わせるということは、『他者を支配して奪い取ること』を生き甲斐にしてきた反社会性人格障害の人にはとても難しい課題なのです。

『評判を守るタイプ』とは、物質的な所有欲や他者への支配欲よりも『マイノリティ集団における名誉と敬意』を重んじる反社会性人格障害であり、何ものをも恐れない自分の勇敢さと強靭さ、恐ろしさを同類の仲間に認められることに全てを賭けています。評判を守るタイプの人は、所有欲や支配欲を満たすために衝動的な行動をするのではなく、『自分がいかに勇敢で強いのか』を仲間に対して証明するために衝動的で危険な行動をする傾向があります。法律を破って犯罪を実行するのは、自分が法の制裁や国家権力を何ら恐れていないことを証明するためであり、対立する敵対グループに先陣を切って突入していくのは、自分が敵対グループの暴力に負けない勇気と根性を持っていることを明らかにするためなのです。そのため、彼らは違法行為の結果手に入れる利益や商品などに殆ど関心はなく、仲間たちが自分の行動をどのように評価しているのかという評判・名声を非常に気にしています。彼らは『自分が誰からも承認されないという孤独感』を抱えており、自分を尊敬して評価してくれる仲間のためであれば、法的に処罰されようが生命を失おうが関係ないというほどの覚悟を決めていることもあります。評判を守るタイプの最大の特徴は、『自分を評価しない一般社会』ではなく『自分を評価してくれるマイノリティ集団』のためにどんなことでもやってしまうという盲目的な勇敢さ(無謀さ)にあります。

『危険への覚悟をしているタイプ』とは、誰もが恐怖して逃げ出してしまうようなリスクに対し敢えて挑んでいくような反社会性人格障害であり、『死を恐れない態度・破滅を恐れない覚悟』に自己アイデンティティの全てを賭けているという特徴があります。『評判を守るタイプ』と『危険への覚悟をしているタイプ』には、誰もが恐怖する危険な行動を敢えて実行するという共通性がありますが、評判を守るタイプは『自分を評価してくれる仲間』のために危険な行動をするが、危険への覚悟をしているタイプは『無意味な人生に意味をもたらす刺激』のために大きなリスクを冒します。しかし、両者ともに『リスクに対する報酬』にはほとんど無関心であり、『自分がどれだけ勇気と力に満ち溢れた存在であるか』を実感するために敢えて深刻なリスクを取って行動するのです。危険への覚悟をしているタイプの反社会性人格障害は、自分の生命にも人生にも殆ど関心がなく、『本質的に無意味な自分の人生』がいつ終わっても構わないという虚無感を絶えず抱えているので、誰もがしり込みするようなリスクに対して決してひるむことがないという特徴を持っています。状況や課題がよりリスキーであればあるほど、危険への覚悟をしているタイプはやる気をそそられるようになり、大きなリスクを乗り越えた自分に周囲の人たちが目を丸くして驚き呆れる様子を見て、この上ない満足感を得ていると考えられます。

『放浪的なタイプ』とは、既存の社会的・職業的制度や文化的価値観に適応することのできない反社会性人格障害で、『社会的な制度・仕事・義務』のすべてからできるだけ遠くに逃走しようとする特徴を持ちます。社会の平均的なライフスタイルを嫌悪していて、就職(職業)や結婚(家庭)に対する関心も低く、その時その時を場当たり的に生きていこうとしますが、経済的困窮や社会的差別の問題に突き当たることが多くなります。放浪的なタイプの人は他のタイプの反社会性人格障害と比較すると『社会への憎悪・他者への不信』はそれほど強くありませんが、『社会制度的な枠組み・規則正しい生活習慣』の中に適応させられることを非常に嫌います。社会における平均的生活(安定した生活)からのドロップアウト組であり、社会の周縁的環境を流浪する人たちですが、『自分の人生(将来)に対する関心の低さ・安定した生活への適応能力の不足』などの問題があるので経済的に貧窮してホームレス化するリスクを孕んでいます。所有欲や支配欲といった反社会性人格障害の特徴をあまり持っておらず、基本的には『社会や他人に束縛されない自由・自分の好きなように行動できる自由』に最大の価値を置いています。

『悪意あるタイプ』とは、反社会性人格障害に見られる『社会への復讐心・他人への憎悪・衝動的な破壊願望・貪欲な所有欲』が最も強いタイプであり、社会常識や規範意識への飽くなき抵抗と他人からの不当な搾取に生き甲斐を見出しています。幼少期に受けたトラウマ的な体験などの影響で『他者への根深い不信感と嫉妬心』を抱いており、他人の行動に『妄想的な悪意』を見出しても『ありのままの善意』を見出すことはありません。妄想性人格障害のように『他人が自分を罠にはめて痛めつけようとしている・他人は自分から搾取することはあっても何かを与えてくれることはない・他人の優しさや同情は偽善的な計略に過ぎない』という被害妄想を持っているので、他人の親切や善意を素直に信じることができなくなっているのです。悪意あるタイプの人は、悪質な嘘をついて他人を騙そうとし好戦的に他人と戦って利権を奪い取ろうとしていますが、他人に不当な危害や損失を与えても罪悪感や後悔の念を抱くことはなく残酷な復讐に快感を感じています。それは、他人への悪意や攻撃(加害)を『過去の自分の不幸や屈辱』に対する当然の補償(報酬)だと認識しているからであり、社会への復讐心と他者への嫉妬心によって彼らの不安定な自己アイデンティティが支えられているからです。悪意あるタイプの反社会性人格障害では、『自己と他者の相互信頼的な関係性』をリアルなものとして深く体験できない限り、『他者に対する残忍な行動・衝動的な加害行為(搾取と支配)・他者の苦痛に対する共感性の欠如』が改善されることはないと言えます。

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